物語は夕暮れ時、トマとエマが家に帰る途中からはじまります。道をいそいでいると、見たこともない不思議な男の子が言うのです。
「こっちのみちを とおりなよ」
こんな道、あったかな? でも近道なのでしょうか。あとをついて行くと道が急に細くなってくねくね、くるくる。見たことのない景色! おまけに小さな家や小人までいるみたい!? ……どうやら二人は迷路の国にまよいこんだようです。
そこから続きはすべて迷路。お話がすすみながら、男の子の「コッチコッチ」の言葉を頼りに正しい道を探していかなければなりません。さらに不思議なことに、大きさの感覚までおかしくなっているようで、トマの目からはエマが巨大に見えたり、小さな本の中にいたと思ったら、巨大な洞穴に迷い込んでいたり。
だけど、その奇妙な感覚を違和感なく一つの迷路として画面に描きだしてしまう大庭賢哉さんの絵は本当に魅力的。どっぷりとその世界に入り込みながら、迷路を楽しみ、さらに細部に隠れたキャラクターを追いながら別のストーリーまで見つけちゃったりして。
よく知っているような懐かしさ、でも異国の雰囲気も漂って。すぐそこの世界かと思えば、確かにここは異世界だと思わされる。絵本だけでなく、児童書の挿絵や漫画などで活躍されている大庭さんが2年あまりの時間をかけて丁寧につくりあげた迷路の世界は、なんだか簡単に抜け出すのがもったいないみたい。
でもやっぱり。
おかあさんの声が聞こえれば、ほっとするものです。
読み終わったら、自分だけの迷路の国を考えてみるのも楽しそうですよね!
前作『トマとエマのとどけもの みちをたどるおはなし』も合わせておすすめです。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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