ふと、目を奪われる、大きく美しい月のかがやき。
まあるい月が、すきとおった光を投げかけると、木や草の陰にかくれた虫たちがいっせいに羽ばたいて飛び立ち……妖精となって踊ります。
夜、野原の花は咲き、魚は空にのぼり、あかちゃんも目を覚まして……。
まあるい不思議な月の光は、遠く、サバンナや、がれきの戦場までもとどきます。
ここからは見えなくても、世界のどこかと自分はつながり、不思議なことが起こっているかもしれないと想像させてくれる絵本です。
児童文学作家・富安陽子さんの祈りのような言葉は、ひと夜、空にのぼっては、朝日とともに消えていく、はかなく、同時に力強い月の光の波動を、私たちに伝えてくれます。
絵描きの吉田尚令さんは、静かな夜空を描きつつも、きらめく星々や賑やかなほどの虫や魚のうごめきを描き出します。
満月のまわりにぼうっと、真珠のようにかがやく虹色の美しさを、絵本でこんなにも味わえるなんて……。
どんな場所にも、どんな空間にも、へだてなく光を投げかける、月。
そのすばらしさを時にはひとりで、時には大切な人と、あじわってください。
すべての生き物に、やさしい月の光が注ぎますように。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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