たずさえてるのは、トランクひとつ。
いろんな乗り物に、のりかえ、のりかえ、山から都会へ、海から空へ。
いったい、どこに行くんだろう?
旅人が行くのは、幾何学的なパターンと、様々なトーンの青色とで描かれる、ふしぎな世界。
バスにはじまり、トラック、モノレール、潜水艦から気球まで!
広がる青い景色と、その中を横切る小さな乗り物たちは、その幾何学的なデザインもあいまって、オモチャみたいにかわいらしい!
著者の長田真作さんは、高い刊行ペースで次々と作品を発表しつづけている、新進気鋭の絵本作家。
詩的で全年齢的な魅力や、記憶へ強烈に焼きつく実験的なイラストが特徴的です。
本作の物語は、乗り物をのりかえて、目的地に向かっている、というだけ。
誰が?
どこへ?
なんのために?
作中では、どの疑問にもはっきりとした答えを示しません。
ただ、旅の終着点で待つ景色と、そこで発せられるセリフが、この絵本の物語を、文字でつづられる以上に、彩りあざやかに描き出しています。
その魅力をお伝えするために、ヤボを承知で、本作にほどこされた仕掛けをひとつネタバレ。
作中では景色のほとんどが青色で描かれていますが、表紙のバス停や、トランク、のりものには、赤色が使われています。
この赤色、最初のページのトランクや、はじめにのりこむバスなどはまぶしいほどの赤で描かれているのに、物語が進むにつれて、だんだんくすんでいくのです。
最後のページに描かれるトランクは、旅立ちの時と同じものとは思えないほど色が変わり、ほとんど茶色に変わっています。
そのことに気づくと、一見してかわいらしく、あざやかな世界の旅路に、全くトーンのちがう味わいが加わります。
それをどう解釈するかはまた、読者ひとりひとりに任されているのですが??
著者の、独特なかわいらしいイラストを楽しむことができるのはもちろん!
だれがどう読むかによって楽しみ方の変わる、長田真作さんの絵本。
その世界観にふれる最初の一冊としても、おすすめの作品です。
(堀井拓馬 小説家)
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