南極と北極を覆う、ドライアイスの氷。
春になって溶け出した二酸化炭素は、氷にヒビを入れながら、ブクブクと吹きあがってくる。
風が砂を運ぶと、砂丘の影が鳥の羽や畑のうねのような模様を描き、別の場所では、氷の力で岩石が持ちあげられ、規則正しい網目模様になっている。
大自然の営みが見せる、ダイナミックなアート!
これ、全部火星の話なんです。
本書では、NASAが開発した火星探査機MROに搭載された高性能宇宙カメラ「HiRISE」がとらえた火星の地表を、おどろくべき火星環境と共に紹介しています。
火星というと、思い浮かぶのはいつも同じイメージでした。
岩石の散らかる赤茶けた荒野が延々と続き、そこに、山や谷の陰影が黒々と落ちている。
そんな風景です。
本書に掲載されている写真を見て、そんなイメージは粉々にくだけ散りました!
まるで穏やかな海のような、青い砂丘のうねり。
様々な種類の鉱石が集まって、カラフルに染まった地表。
太陽光を受けて金属のような光沢をはなつ、岩や砂の質感。
抽象絵画のようにも見えるそれらの写真は、じっとながめているとスケール感がおかしくなってきて──。
地球の半分の直径を持つ惑星を撮影したものであるはずなのに、逆にとても小さなもの……たとえば、削り出したばかりの鉱石の表面や、顕微鏡で映すミクロ世界の光景のようにも見えてきて、とても神秘的な感覚をおぼえました。
美しさの代名詞、ヴィーナスと呼ばれる金星。均整のとれた輪を持つ圧倒的オリジナリティ、土星。だけど本書を手にとれば、火星の意外な姿にも、魅了されることまちがいなし!
いちばん身近な、地球のおとなりさん。その意外な姿を写した一冊です。
(堀井拓馬 小説家)
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