砂漠に花畑?
その目を疑うような光景が、砂漠では一年に一度だけ見ることができる。
それもたったの一週間だけ。
400年間、一粒の雨も降らない場所もあるというカラカラに乾いた不毛の大地、アタカマ砂漠。その砂漠から遠く離れた場所で雲ができ、地上で「カマンチャカ」と呼ばれる霧となる。一年に一度、その「カマンチャカ」が砂漠の上を通った道だけに、突如出現する鮮やかな花畑を現地の人は「神様のたわむれ」と伝えてきた。なぜなら、毎年どこにどんな範囲で現れるのかは誰にもわからないから。
それほど奇跡に近い、尊い子孫を育むその瞬間だけを何年も何十年も土の中で、じっと待ち続けている命がここには在るのです。
この写真絵本の作者は、南極、アフリカ、南米、熱帯アジアと世界中を駆け巡り、これまでも私たちの固定概念を打ち砕く生命の神秘と生き物たちの真実の姿をファインダーにおさめ続け、その命の美しさと危機的現状をメディアや現地の活動を通して、精力的に訴えている生物フォトジャーナリストの藤原幸一さん。
藤原さんが、自ら現地に足を運び、自分の目で確かめた宝物のような貴重な奇跡の数々。
「カマンチャカ」を待ち続けている砂漠の花たちの一瞬ですが、その可憐で艶やかな姿には本当にびっくりさせられます。また、その花を巡り、命をつなぐ役割をしている虫たちや鳥、そしてその小さい命に集まってくる動物たちの営み。絵本の中では、「カマンチャカ」とお花たちの会話を通して砂漠での生態系が子どもたちにもわかるように易しく解説されています。「ライオンのしっぽ」という意味のある「ガラ・デ・レオン」やインカのゆりとも呼ばれる優雅な「アストロメリア」。他の植物をしめつけながら栄養を盗んでしまう白い花の「カスキュータ」など珍しい砂漠のお花や鮮やかな青のカナブンなど見たこともない植物や虫もたくさん登場します。
私たちが、花屋さんで出会うアストロメリアやアロエなどの多くの園芸植物ももともとは砂漠に咲いている植物。その同じ植物が現地では短い限られた期間を生き延び、自分たちの子どもを残そうと命のバトンを必死にたくしているのかと思うと胸がしめつけられる思いと同時になんて強いのだろうと励まされます。けれど、その奇跡の花畑も地球の変化によっていつかは見ることができなくなるかもしれないそんな強いメッセージもこの絵本には託されているのです。
日常の中で、なかなか知ることのできない砂漠の命、この絵本を通して何を感じるか子ども達に是非読んでもらいたい一冊です。
(富田直美 絵本ナビ編集部)
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