古(いにしえ)の日本。そこは、今では考えられないほど巨大な木々が生え、妖怪たちが山を歩きまわる世界。
これは、一本の巨木と、その森に住む人ならざるものたちの物語。
人々は田畑が日陰になるのを嫌い、その巨木を切り倒します。
田畑に陽が当たり人々は喜びますが、しかし怒りにふるえるものたちも――。
森に住む百の鬼たちです。
「いくさをして、人間どもをひとり残らずほろぼしてしまいましょう」
美しい女の姿をした鬼が言います。
しかし、ツノをはやした恐ろしい顔の鬼は、それに反対します。
「人間は木の本当の大切さを知らない。それを人間たちに教えてやろうではないか」
そして都では、鬼たちによる不気味な事件が起こりはじめます。
柱から伸びる、無数の子どもの腕。
寝静まった人の顔をなでる、濡れた手。
人々は恐れながらも、なにかみずからのおこないがそれを招いているらしいと、やがて気づきはじめます——。
「今は昔」のフレーズではじまる、日本古来の説話集「今昔物語集」。
そこに収められたいくつかのエピソードをもとにして、あらたな物語として構成したのがこの「鬼のかいぎ」です。
神仏や怪異を現実にあるものとしてとらえていた時代につくられた説話は、「古い時代にはもしや本当にこんなことが……」と思わせる、まか不思議な緊張感をまとっています。
自然との共生をテーマに原作を編集した本作においても、自然をないがしろにするおこないに対する危機感や恐怖を、切実な雰囲気で演出しています。
そして、なんといってもいちばんのみどころは、登場する百鬼たちの姿。
描くのは、「給食番長」シリーズで人気のよしながこうたくさんです。
まがまがしく不気味な姿をしていながらどこか愛嬌もある鬼たちは、その強烈な印象に目がくぎづけ!
すこし手にとるのが怖いほどおそろしい形相の鬼が表紙に描かれていますが、よしながこうたくさんの描く多種多様な百鬼の姿を、ぜひ味わってみてください。
(堀井拓馬 小説家)
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