日本の神話、知っていますか? イナバの白ウサギとか、太陽の神アマテラスが岩屋に閉じこもってしまった話とか、断片的には思い出せるけれど、正直に告白すると、きちんと語れる自信はありません。そんな私が、興味しんしんで手にしたのがこの本でした。
本書は、「古事記」の神話を、今の子どもたちが読みやすいように再話しているだけでなく、耳で聞くことを前提に作られています。えっ、ユニークな企画だなと思ったのですが、そもそも「古事記」は、机の前で難しい顔をした作家や学者が書いた書物ではなく、長い時間をかけて、口から口へと語り継がれていったものだったそうなのです。だから、「音で聞く」というのは、「古事記」と初めて出会う子どもたちに、ぴったりな形なのかもしれません。
読みはじめて驚いたのは、これまで絵本などで断片的に知っていた神話は、バラバラのものではなく、大きな神話の流れの中の一部だったのだということです。
イザナキとイザナミの物語では、わたしたちが住む日本という国は、どうやってできたのか、ということに始まり、黄泉の国へ死んだ妻イザナミを連れ戻しにいく冒険、黄泉の国からかえってきたイザナキの体から、アマテラス、ツクヨミ、スサノオの3神が生まれたことが語られていきます。
そして物語は、天の岩屋、スサノオとヤマタノオロチ、稲羽の白ウサギへと脈々と続いていくのです。なじみのあるエピソードも、「こういう流れでこうなったのか!」と発見があり、つながりで読むととても新鮮なのです。
そして改めて声に出して読んでみると、ウマシアシカビヒコジ、オシホミミ、タケミカズチといった神様の名前や、よもつひらさか、あしはらのなかつこくという場所の名前の音のおもしろさに魅了されます。
恋愛をし、怒り、泣き、いたずらし、失敗する……。神さまたちがなんともおおらかで自由奔放なのにも、親近感を覚えます。
もちろん、本書は文字で読む読み物としても素晴らしい一冊です。味わいある力強い木版画と、ていねいな注釈が太古の世界へと誘ってくれます。
文字で読み、音で聞いて、生き生きとした神々の物語に触れてみてください。きっと驚きと発見が待ち受けているはずです。
(光森優子 編集者・ライター)
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