満月の晩にふる雨は、月のしずく。きっといいことがあるに違いない……。
本書を手にした瞬間、しっとり落ち着いた、温かみのある絵に魅了されずにはいられません。美しくて清らかな言葉と情景と気持ちが、そのまま「絵本」というかたちになったような一冊です。
農場で暮らす夫婦は仲むつまじく、満ち足りた忙しい日々を送っています。唯一、二人が欲しいと思っているのに持っていないものは、赤ちゃんでした。
ある春の、満月の夜。大きくて真っ白な月が輝く中、静かな雨が降っていました。外に出た夫婦は、草の中に銀色に光るものを見つけます。よく見てみると、小さな水たまりがたくさんあり、なんとそれぞれに親指くらいの小さな赤ちゃんが12人もいたのです。
小さな小さな赤ちゃんたちを大切に育てていた夫婦に、ある日、思いがけない危機が襲いかかります……。
なかなかかなえられない望みがあったり、思いがけない事態や悲劇に直面したりしたとき、無性に悲しくなったり、自分以外のどこかに責任をおしつけたくなったりすることがあります。
この物語は、「かけがえのないものは何か。それを守るために、何をするのか」という素朴な問いの答えを、意外なかたちで見せてくれます。大切なのに忘れかけていたものを思い出させてくれるようで、読み終えると身体のすみずみまで満ち足りた気持ちになります。
本書を読んでいるうち、月と子どもからの連想でしょうか、西洋版の「かぐや姫」みたいだな、と思いました。そして、国境も時間も超えて、人々が夜空に光る月を見上げて物語を紡いでいる……そう考えた瞬間、胸の中にさらに温かな気持ちが広がってきました。
(光森優子 編集者・ライター)
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