大きな赤い壁がありました。どこまでもずうっとつづいていました。
壁の中には動物たちが住んでいますが、壁がどこまでつづいているのか、誰がいつどうやって作ったのか、誰も知りません。気にする者さえいないようでした。
でも、知りたがりの小さいねずみだけはこう思いました。
「ふしぎだな、きになるな。この かべの むこうに なにが あるんだろう?」
ねこやきつねやくまは、「かべはあたしたちを守ってくれるのよ。外にはこわいものがいっぱいあるから」とか、「むずかしいことを考えるのはやめろよ。そうすりゃハッピーになれる」とか、いろいろなことを言います。
くたびれたらいおんは「かべのむこうになんて、なにもない。闇だ。はてしない闇だ」とまで言います。
でもある日、飛んできた空色の鳥といっしょに、壁をとびこえたねずみは……。
この本の作者、ブリッタ・テッケントラップは、ドイツ生まれの絵本作家で、『いのちの木』をはじめ、哲学的で美しい絵本を描いています。
圧倒的な存在感がある赤い壁と、壁を越えたあとのカラフルな世界は、ぜひ見くらべてほしい場面です。
「ほんとうのものを みる ゆうきが あれば かべは きえる。ぜんぶ きえたあとには きっと すばらしいせかいが あるはずだよ」という言葉が胸にひびきます。
もしかしたら「かべ」があることにさえ気づかずに暮らしているかもしれない私たち。
「かべのむこう」を知りたいと願う、ねずみの勇気と、希望を感じる結末が、心に小さな火を点します。
大人でも子どもでも、手元に置いておいて、ときどき読み返したい絵本です。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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