1974年に代田昇さんの文・赤羽末吉さんの絵で刊行された貴重な作品の復刊です。
沖縄県の慶留間(げるま)の島に、可愛(かなー)とよばれる、たいそうかわいらしい女の子がおりました。
可愛の父母は、身分違いで結婚を反対され、舟がたどりついた小さな島で子どもを産んだのでした。
可愛は島中の人に可愛がられ、がじゅまるの木の上からはある日「天の御子じゃ。だいじにそだてるがよい」とお告げがあります。
可愛はなんでも覚える、とても賢い不思議な子でしたが、7つになる誕生日の朝、とつぜんオタキ山に向かって走り出しました……。
人が暮らす村里を離れた、可愛はどこへいったのでしょう。
あるとき、大和の海賊に村がおそわれたとき、どこからともなくりゅうがあらわれ、海賊をしりぞけます。
りゅうの背には天女の姿があり、見上げた村人たちは「あれは可愛じゃ、われわれをすくってくれたのじゃ」と拝みます……。
作者の代田昇さんは1924年長野県生まれですが、太平洋戦争中、沖縄で住民に命を救われたそうです。
沖縄の海と土のにおいのするような、このおはなしには、沖縄の言葉や文化への深い敬意が感じられます。
現代の子たちにはぜひ声に出して読んであげたい作品です。
『スーホの白い馬』や『だいくとおにろく』など、数々の絵本でおなじみの赤羽末吉さんの絵はすばらしく、本書も一見の価値あり。
渦まく海やたつまき、黄金竜……。とくに緋色や墨色は味わい深く、絵筆のタッチに心を奪われます。
日本の南のかなたの地方にまつわるおはなしの世界を、大人にも子どもにもあじわってほしい絵本です。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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