むかしむかし、とある国に、ちいさなお姫さまがひとり、おられました。
金色の長い髪と、すみれ色のひとみの、それはそれは美しいお姫さまでしたが、あまりにも小さすぎるせいで、だれの目にも見えないのです。
鼻息で吹き飛ばしてしまうかもしれない! それとも、知らずにふんづけてしまうかもしれない!
そのうちにだれもお姫様の世話をしなくなり、お城の掃除もしなくなりました。
となりの国のお姫さまは、だれも見たことがないくらい美しいらしい。
ある日、そんなうわさを聞きつけた隣国の王子さまが、兵隊たちを連れて馬を走らせました。
小さなお姫さまに、結婚を申し込もうというのです――
お姫さまのお世話にとまどう家来たちや、親バカな王さま。
そして、お姫さまとそのお城のことを、本当にはなにも知らないままに求婚へ赴いた王子さま。
お姫さまの、ただ「小さい」という個性にふりまわされる彼らのドタバタがユーモラスな一冊です。
ちんまりとしていて、屈託無く笑う小さなお姫さまの、なんとかわいらしいことでしょう。
でも、その姿は拡大鏡を使わないと目には見えないほど。
物語がはじまってすぐ、侍女たちが小さなお姫さまの髪をとき、着替えさせようと苦心する場面があります。
むずかしい顔で拡大鏡をのぞき、ピンセットで櫛をつまんだ侍女。
その視線の先にお姫さまがいるのですが――
ほんとにちっっっちゃい!!
かの有名なおやゆび姫さえ巨体に思える小ささ。
そんなお姫さまなので、作中ではいつも、ささやかに装飾された美しい拡大鏡がよりそい、その姿を読者に示しています。
おもしろおかしい話でありながら、そうしたどこか象徴的な演出と、解釈に幅のある結末も手伝って、物語全体が詩的な味わいに富んでいます。
さて、王子さまははたして、小さすぎるお姫さまの心をつかむことができるのでしょうか?
イソップにもアンデルセンにもいなかった、あたらしいお姫さまの童話!
(堀井拓馬 小説家)
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ある国に、とてもとても美しくて、ちいさなちいさなおひめさまがいました。
あまりに小さかったので、だれもその姿を見ることができません。
侍女たちは、うっかり鼻息で吹き飛ばしてはたいへん、とお世話をやめてしまいました。
家来たちも、うっかり落ち葉といっしょに掃いてしまったらたいへん、とおそうじをやめてしまいました。
兵隊たちも、うっかり馬でふみつぶしてはたいへん、と訓練をやめてしまいました。
あるとき、となりの国の王子様が
「だれもみたことがない」くらい美しい、というおひめさまのうわさを聞きつけ
結婚したいとやってきました。
王さまが「小さすぎるから」といってもひるみません。
さて、その結末は……。
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