およそ400年前、紀伊国(和歌山県)の太地。
入り江の奥にある村には、時々くじらが迷いこんでくる。
「あのでっかいやつをしとめることができたら、ちっとはくらしもらくになるがのう」村人たちはつぶやいていた。
そんな海を鋭い目でにらんでいる男が2人いた。
腕はよいが、あらくれ者のでんじと、どうにかしてクジラを捕る方法はないかと考えつづけているいえもんだ。
ある日、入り江の外にクジラが現われた。
村人たちの小舟が逃げる中、でんじだけが小山のように大きなクジラに立ち向かう。
クジラには逃げられてしまったが、いえもんは、村のみんなで力をあわせてクジラとりをすることを提案する。
だが、でんじは一人で海に出ると断った。
それからは村中が大忙しだった。
山から木をきりだし、いたにひく。
船をつくる仕事場では、コンコンとつちの音が響き、もりをつくる小屋では、トンテンカン、トンテンカンと鍛冶屋が夜まで働いた。
そして、大勢の男たちが、巨大な網をあんだ。
いえもんには、ある作戦があったのだ。
冬のある日、ついにくじらがやってきた。
だが、あたり一面霧がかかり、目の前から海が消えた。
やがて村人たちは驚くべき光景を見る。クジラたちが水の中から走り出て、海の上をとんでいるのだ。
でんじは、親子のクジラの子どもを狙ってもりを投げるのだが――。
1973年に刊行された名作「クジラむかしむかし三部作」が、復刊されました。本書をはじめ、『もりくいクジラ』『クジラまつり』と物語は続き、クジラと向き合う村人たちの姿と時間を、力強い文章と絵で描きあげます。
生きるためにクとジラと向き合う男たちは、大きな犠牲を払います。その一方で、自分の身を挺して子クジラを守ろうとする母クジラの思いに、胸を深く打たれるのです。
生きるための厳しさ、そして自然への尊敬の念にあふれた心震える1冊です。
(絵本ナビ編集部)
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