およそ400年前、紀伊国(和歌山県)の太地のお話。
あるとしの正月のこと。
庄屋のかそうじと、もりうちのいえもんのふたりが、岬にあるおみやにやってきた。
ことしもクジラがとれますように――。
そんな中、クジラの親子がシャチの群れに襲われている光景に出くわす。
シャチは海のオオカミだ。でっかいクジラでさえもかなわない。
見かねたいえもんがほらがいを吹き鳴らす。
元日は休みだし、あしたはクジラまつり。仕事などないはずだが、村人たちは磨いてあったもりを手にして、船をこぎだす。
先頭の船には、村で一番腕利きのもりうちのそうだゆうが乗っている。
死闘の末、シャチはおっぱらったが、舌を噛みちぎられた大きなクジラがぐったりして、波の間に浮かんでいた。
かそうじの号令で、男たちは「えびすさま」を運んで村に帰る。
「えびすさま」とは、クジラのことだ。福の神のように村を豊かにしてくれることから、そう呼ばれている。村人たちは大喜び。
あぶらをしぼり、にくを塩漬けにする。クジラの血は畑の肥やしになるし、ひげ、すじ、骨も役に立つ。いらないものは何もない……。
胸に迫る美しいラストシーンと、いえもんが放つ、凛とした言葉がとても印象的です。村人たちにとって、クジラは獲物であり、同時に幸せと恵みをもたらす福の神でもあり、守るべき命でもある――と教えてくれます。
三冊の冒頭に出てくる、「ひよりじいさん」は、子どもたちにせがまれればくじらとりの昔話をし、一番鶏が鳴く早朝に浜辺に出て、海に出ていく者にその日の天気を教えます。このお年寄りの本当の名前も、ここで明らかになり、胸がいっぱいになります。
「クジラむかしむかし」三部作を読むと、おなかの底から熱いものが湧き上がってくる気持ちになります。脈々と受け継がれる命と思い、そして生きる知恵。人間は自然と闘い、共存し、こうやって命をつないできたのだ、と腑に落ちるのです。
(絵本ナビ編集部)
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