夏祭りの日の夕方、屋台の行列に並ぶ気になれなかった小学5年生の「おれ」は、母さんと妹から離れて、ぶらぶら歩き出した。
お祭りがひらかれている神社の、一番奥にぽつんとあった小さなテント。
引き寄せられるように入り口をくぐった少年が見たのは・・・・・・水槽の中を泳ぐ小さな魚たち。
「なんだ、金魚すくいか」と思ったら、よく見るとそれはクジラの形をしていた。
ゆったりと泳ぐ、黒っぽい灰色のからだは、あかりに照らされると、時々銀色に光る。
集まっている子どもたちの中には、クラスメイトのミノルもいた。
いきなり入ってきた男の人が「ただのきたない金魚じゃないか」というと、しらけた何人かの子は出ていった。
でも出ていかなかった「おれ」とミノルは、その小さな魚をすくうことに成功して……?
第35回「日産童話と絵本のグランプリ」、童話大賞受賞作品。
夏祭りの不思議な出来事は、日常に持ち帰ってもつづくのか。
すべてを信じられる年齢ではなくなったからこそ、のぞける世界があるかもしれない。そんな繊細な空気を、作者はみごとにおはなしに織り込んでいます。
おはなしも絵も、陰影の深さに独特の魅力があり、小学4、5、6年生のお子さんにぜひ味わってほしい絵本です。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
続きを読む