テストの成績がよかったことをクラスメイトにからかわれた周は、クラスで仲間はずれになってしまいます。
仲がよかった友だちとも話せず、冬休みまであと二日にせまった日、靴箱からスニーカーがなくなりました。
その夜、周はおじいちゃんにメールをします。
「どうしよう。ぼく、学校に行けなくなりそうだよ。」
おじいちゃんは、外国の支援事業でスリランカと日本を行ったり来たりして働いています。一緒に行こうと誘われた周は残り二日の学校を休み飛行機に乗りました。
むっとするほど暑い空港で出迎えてくれたのは、おじいちゃんの仕事の運転手のセナ。黒い目に丸い鼻、人なつこい笑顔で微笑むスリランカの男性が目に浮かびます。
茶畑で茶摘みをする、セナの娘ジャヤとおしゃべりをするようになった周は、へんなことに気づきます。
セイロンティーが有名で、紅茶の木が島じゅうに生えるこの国に、タミル人とシンハラ人という二つの民族がいること。二つはどうやら仲がよくなくて、シンハラ人はタミル人をばかにしているようだということ。
人が人をばかにするなんて嫌だなあと思いながら、周はこの島で最近まで「内戦」があったと知りますが……。
日本とはまったくちがう自然、人種、生活環境のなかで、周は様々なことを感じます。おもしろいのは、おじいちゃんが立派な人としては描かれていないところです。せっかちで整理整頓が苦手で、人の予定なんか気にしない。でもそんなおじいちゃんが、タミル人のセナとは独特の信頼関係で結びついています。
きびしい現実にぶつかったとき、私たちはどうやり過ごそうとするでしょうか。
周のようにすぐ飛行機に乗れるなんてうらやましい、ですよね。実際は難しいよ、という声が聞こえてきそうです。でも本当はいつだって、旅に出ようと思えば私たちは旅に出られます。そして帰ろうと決めたら、帰ることができる。その場でうずくまってやり過ごすことも、どこか他の場所へ視線を転じて、今いる場所をとらえ直すこともできるんです。
本書の最後に、ビーチでおおいかぶさってくる大きな波に揉まれながら、周はある決心をします。
7日間の旅で、周がつかんだものは何でしょう。
茶畑で出会ったジャヤのように、友だちになれるかもしれない、地球上の他の場所で生きる子どもたち。
それぞれがそれぞれの現実のなかで、あきらめずに生きようとする姿に胸を打たれます。
いつかいろんなことにぶつかる子どもたちの底力を信じて、そっと手渡してあげたい本です。
そして、本書に書かれるセイロン島の風景も印象的です。あちこちに白い滝が流れる大きなすり鉢状の大地、一面に広がる緑の茶畑、千年前のため池、香りの強いジャックフルーツ、高い波がよせるビーチ……。スリランカを旅してみたくなりました。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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