むかし、ある村に仕事もせず遊んでばかりいる若者がいました。
ある朝、いつものようにぶらぶらしていると、道ばたに壷がころがっていて、中には小さな小さな男が入っています。
か細い声に耳をすますと、「わしゃあ、なんにもせんで、いつもあそんでるもんがすきなんじゃ。おまえさんちにつれてって、いっしょにくらしてくれんか?」と言っているようです。
若者はおもしろがって、壷を持ち帰りましたが…。
村のみんなが汗水たらして働いているのに、つりをしたりトンボをとったり、日暮れまで遊んでいる若者。
一方、遊んで帰ってくるたびに、小さな男はぐんぐんと大きくなり、とうとう家からはみだしてしまいます。寝るところがなくなり、若者は家の外で寝る始末。
そんなとき「稲刈りがいそがしくて手が足りんから、てつだってくれ」と村人から声がかかります。
しぶしぶ働いて、若者が家に帰ると、男がちょっぴり縮んでいて…というおはなしです。
本書は、山口県の民話から生まれた、おはなし絵本。
なまけものの昔話は日本各地にありますが、このおはなしは、若者がなまけるか働くかで、ひろった小さな男が大きくなったり縮んだりするところがユニーク。
『ボタ山であそんだころ』で講談社出版文化賞絵本賞を受賞した石川えりこさんの生き生きとした線、水彩で彩色された絵からは、のんびりしたあたたかな雰囲気が伝わります。
作者の唯野元弘さんは山口県生まれで、昔話の再話に関わる方だけあって、方言のせりふが自然に心地よく響きます。
一日中遊び暮らしても誰にも叱られない若者がうらやましくなりますが、ぐんぐん大きくなる男に家をのっとられては気の毒になるばかり。
一方で、遊び暮らす若者の幸せそうな顔、働いたあとの充実感漂う顔、どれも味わい深い表情です。
さて、もしあなたがこんな壷をひろったら…? 想像するだけでちょっとドキドキしてしまいますね。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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