ページをめくるとサルくんがあらわれます。
文字はありません。
サルくんは、うさぎさんと出会って顔を見合わせたり、ありさんたちが砂糖を運ぶのをじっと見つめたりしています。
大きなぞうさんの鼻先に乗ってもちあげられたり、ちょうちょと目を見合わせたりしています。
なんだか悲しそうな表情のときもあれば、おだやかでやさしい目をしているときもあります。
水にうつるサルくんの姿はどこかさみしそうに見えます。
画面は暗くなり、黒い森のなかで、サルくんは泣いているおつきさまに出会います。
サルくんは、高い木を見上げ、おつきさまを背負って登りだします……。
悲しくて悲しくて泣いているおつきさま。
サルくんに背負われてもまだ悲しそう。
おつきさまは、空から落ちてきてしまったのでしょうか?
心細そうにポロポロ涙を流し、落ち込んでいるようすがつたわってきます。
作者は20歳のときにボローニャ国際絵本原画展を見て、独学で絵本を作りはじめました。
その後日本だけではなくフランスやイタリアなどで数々の絵本を出版しています。
独特の、こころもとなさの漂う絵には、読むわたしたちも内面を刺激され、ぽつぽつとふだんは押し込めている感情がわき出してくるようです。
「ぼくがこのえほんでつくりたかったのは、こころのよはくです。」
最後のページで作者がこう記している意味を、絵本をひらいてみなさんもあじわってみてください。
この絵本のおつきさまのように、どこかで泣いている人を、絵本で笑顔にしたい……。
絵本作家、谷口智則さんの、原点と言える作品です。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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