「ママ よんで」
りくが持ってきたのは、一冊の絵本。それは、ママが生まれる前からうちにあって、おばあちゃんに繰り返し読んでもらった物語。
―― むかし、東のほうに小さな国がありました。王と女王は力を合わせて国を治め、人々はよく働き、みんな楽しく暮らしていました。明るい瞳を持ち、歌うのが好きな一人娘のラミラは、人々から愛されていました。
ところが、ラミラが10歳になった頃、国が大変なことになったのです。雨が一滴も降らなくなったのです。
ラミラは、王と王女からある使命を授かります。それは、ずっと遠く西の方にある大きなりんごの木の実をもらってくることで……。
「ラミラえらいね、ママ」
「そうだね、ゆうかんだね。」
自分より少し大きいだけのラミラの果敢な冒険物語。何度も読んだはずなのに、りくもママも何回だって一緒にドキドキします。ラミラが歌えば二人も歌い、ラミラが凍えていれば心配をし、ラミラが喜べば二人の瞳も輝きだすのです。
「りくはここが好き」
「ママが好きなのはね…」
そんなやり取りをしているうちに、絵本は、まぶしく輝くあの最後の場面へ。……なんて美しいのでしょう! 踊るラミラも、見守るりくとママも、それを読んでいる私たちも、しばらく恍惚の時間を過ごします。そして言うのです。
「もっかい よんで」
絵本をテーマとした絵本。作者は編集者として子どもの本の仕事にずっと関わられてきた南谷佳世さん。初めて手がけるこの物語の世界をどこまでも深く広げているのは、絵本作家として、画家として、活躍されている大畑いくのさん。読んでいるうちに、今自分が入り込んでいるのはラミラの話なのか、りくとママの時間なのか、わからなくなってくる不思議な構造になっているのだけれど。
どちらだっていいのです。
そう、これは「私たちの絵本」ですから。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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