すっと背筋を伸ばし、胸に手をあてこちらをじっと見つめる「ねこ」。
どこか悲しげな表情をしながら、ゆったりとすわりこむ「いぬ」。
鋭く、だけどどこか自慢げな眼差しでこちらを見る「いのししの親子」。
美しい羽を大きく大きく広げ、凛と立つ「くじゃく」。
鮮やかな色彩に、生き生きとした筆づかい。美しい佇まいの中からじっと見つめてくる大きな瞳。
どこか不機嫌なようにも、切ないようにも見える動物たちのその表情をじっくり眺めていると、彼らから色々なつぶやきやおしゃべりが聞こえてくるような気がしてきます。
「こんど 生まれてくるときは 『ねこ』が いいなあ・・・」
「どうして わたし・・・ ねずみなんか 好きになっちゃったのかしら」
「見て 見て 見てちょうだい きりょうよしでしょ 子どもたち
見て 見て 見てちょうだい たくましいでしょ ぼくらの母さん」
この不思議な魅力を放つ絵本。
チェコを代表する絵本作家ミルコ・ハナアクが描いた動物画に、山崎陽子さんが耳をすませて文章を書き、完成した作品なのです。彼らの無邪気な独り言、他愛のないお喋り、ひそかな祈りをこっそりと聞くことができるのです。
1997年に日本で販売され、絶版になってしまっていた絵本でしたが、多くの熱心なファンからの復刊を願う声がやまず、 2014年12月に新たに藤原書店より刊行されました。
登場するのは、馴染みの動物ばかり。でも、どこか知らない表情を見せてくれているようで、読んでいるうちにどんどん心が惹きつけられていくのを感じます。何よりも、子どもは子どもなりに、大人は大人の感覚で、彼らの小さな物語を楽しむことができるのが、この作品が愛されてきた大きな理由なのかもしれませんね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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