山のふもとの小さな町に、ひとりの男が暮らしていました。
ある日、見なれない植物を発見した男は、不思議と心惹かれ、自宅へ持ち帰って育てることにします。
宝物のように大事に世話をしたその植物は、やがてつぼみをつけ、花をさかせました。
その花は息をのむ美しさ。何色と呼んでいいかわからない、見ていると心が透き通っていくような色でした。
「これ……青じゃないか?」
花を見た男の友人が言いました。
「そんなバカな」
男は笑います。
なぜなら、この国では「青」は伝説の色、青い色そのものがこの国にはなかったのです。
うわさは瞬く間に広がりました。
花は、幻の「青い花」として国中で話題になり、男のもとにたくさんの人がやってきました。お金の話が舞い込んで、男の周囲は急に変わっていきました。
ところが、「青い花」フィーバーの真っただ中、あるニュースが流れ……。
「青」に右往左往する国民と、振り回される男。
現実の世の中にも同じようなことが日々あふれているというのに、おはなしで読むとなんと滑稽にみえるのでしょう。
けれども、男が最後にとった行動に、読者はハッとさせられます。
同じ価値観に流されがちな世の中で、あなたが本当に信じているものはなんですか? あなたは信念を行動に移せていますか? と問いかけられるのです。
中・高生向け全国学校図書館協議会選定図書。
「自分の大切なことは自分で決める」
生き方への悩みが増える思春期の子どもたちに手渡してあげたい一冊です。
そして時に迷う大人たちの心にもきっと響く、大人のための絵本でもあります。
人気絵本作家・翻訳家の風木一人さんと、2017年に逝去されたグラフィックデザイナー長友啓典さん、ブックデザイナーの松昭教さんがコラボレートして作った、「絵本」の枠を超えた一冊。
装丁も美しく、そっと本棚に置いておきたい絵本です。
(掛川晶子 絵本ナビ編集部)
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