2011年3月11日、東日本大震災。
中野栄あしぐろ保育所には、150人の子どもたちがいました。
同保育所が建っているのは、仙台市の沿岸部。
あの日、津波に襲われ、飲み込まれてしまった場所です。
歩けば床に投げ出されてしまうような揺れ。
渦を巻いて園舎を飲み込む津波。
幼い150人の命。
これは、すぐ足元まで迫った死の気配に笑顔で立ち向かいながら幼い命を守りきった、勇敢な保育士たちの物語です。
著者は「くまのがっこう」シリーズや「がんばれ!ルルロロ」シリーズで知られる、あいはらひろゆきさん。
日本を襲った大災害から時が経ち、当時のことを知らない子どもたちも増えていくなかで、震災の記憶を風化させてはならないという想いを込めて、本作を制作したといいます。
まだ一人では歩くことさえできないあかちゃんを含む、150人もの守らなければならない命と共に、あの日の夜を越す。
それだけでも、どれだけの不安と恐怖か計り知れないほどですが、あまつさえ階下には津波がせまり、あたりは停電により、暗闇に沈んでいるのです。
それでも、保育士さんたちは子どもを不安がらせてはならないと、笑顔を向け、歌を歌い、彼らを勇気づけました。
当時の不安な気持ちを、大人の誰もが、今もなお生々しく思い出すことができることでしょう。
そんな中で、幼い命と共に死の危険にさらされながら越す夜の恐怖と、そして、それと戦った保育士さんたちの勇気とを思うと、とても涙をこらえることができませんでした。
震災にみまわれ、歳月の長さを経てもなお癒えない傷がある、その一方で──
震災を生き延び、歳月を経て、たくましく成長したたくさんの命がある。
震災を知らない子どもたちに、当時のことを印象深く伝えることができる絵本としてはもちろん、壮絶な震災体験を通してあの日をふり返ることで、いつか必ずまた起こる大災害に、あらためて目を向けるきっかけにもなる一冊です。
(堀井拓馬 小説家)
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