創刊から100号を超え、多くの挑戦や実験が試みられた1964年8月号からの50作品が「こどものとも復刻版 Cセット」として蘇りました。 東海道新幹線開業、東京オリンピックと日本は高度経済成長時代へ。「こどものとも」は創刊100号を超え、保育現場や家庭に広まりつつありました。そんな環境に後押しされ、鳥獣戯画を題材にした『かるのごほうび』、安野光雅さんの文字のない絵本『ふしぎなえ』など、多くの挑戦的な作品が生まれました。
●第六感がピーンときて、素晴らしい作家を見つけることができた時期です。
関根:「こどものとも復刻版Cセット」の50冊のラインナップは、現在も活躍されている絵本作家の初々しい作品がいっぱいで、編集者としてうらやましいなと。
松居:日本で初の試みだった月刊物語絵本の編集を100号までやってきて、失敗も含めたくさんの経験をし、第六感がピーンときて「この人はいける」と思わせてくれた。関根さんは、この中だと、どの作品が一番印象に残っていますか?
関根:子どもの頃、強く印象に残っているのは土方久功さんの『ゆかいな さんぽ』(116号)です。後の『ぶたぶたくんの おかいもの』(175号)もそうですが、なんともいえないおかしみがあって、このぶたが大好きでした。
松居:本当にぶたですよ、ぶた以上にぶた。そういうところが土方さんはすごい。本業は彫刻家。独特の彫刻でした。サテワヌ島の民話を取材、記録した民俗学者でもあった。そんな不思議な経歴に興味をもって、「この人が絵本を描いたら子どもが面白がるものができるだろうな」とそれでお願いに行ったんです。
- ぶたぶたくんのおかいもの
- 作・絵:土方 久功
- 出版社:福音館書店
ぶたぶたくんは、おかあさんに買い物を頼まれました。子どもが買い物にいった様子が、なんとも暖かくユーモアたっぷりに描かれ、楽しい言葉がたくさん盛り込まれた魅力あふれる絵本。
関根:「子どもが面白がる」、そうですね。確かに、子どもの感性に訴えかけてくる絵って、ありますよね。素晴らしい絵を描く人でも、絵本となるとまた違ってくる。絵本は子どものものだから。違う資質みたいなものが必要になりますね。
松居:子どもの気持ちや感性、子どもが何に興味を持って、何を感じて、何をどんな風に見ているのかは、大人とは違います。そういうものが見分けられる作家を探す。第六感で。そういう意味でいうと、加古里子さんは抜群でしたね。
関根:加古さんは「セツルメント活動※」などを通して、子どもというものを深く理解されていて、子どもが楽しむポイントをよくご存知。『だるまちゃんとてんぐちゃん』なんてその極みだなと。私自身も絵本を読んでもらうと、だるまちゃんと一緒に遊んだような感覚になりました。
松居:絵は決して上手ではない(笑)。でも、線が子どもに語っている。最近はどうしても自分の絵を、大人というか、出版社や買ってくれる親に見せようとする描き手が多くて、子どもに語る作品を作ることが難しいのかもしれません。
- だるまちゃんとてんぐちゃん
- 作・絵:加古 里子
- 出版社:福音館書店
ながい鼻とかうちわとか、てんぐちゃんの持っているものを何でも欲しがるだるまちゃんの物語を、親しみやすい絵で語ってゆく、ユーモアあふれる絵本。
関根:今回の復刻版Cセットは、どの作品も子どもと向き合い、語ることをおろそかにしていない。でも、1冊1冊は作家さん、絵描きさんの個性がたちあがっていて、画一的なものがひとつもないですね。
※セツルメント活動 宗教家や学生などが、都市の貧困地区に宿泊所・授産所・託児所その他施設を設け、住民の生活向上のための助力をする社会事業。(広辞苑より)