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絵本ナビホーム  >  スペシャルコンテンツ  >  インタビュー  >  ちちん ぷいぷい、おいしいものに なあれ!『ケーキになあれ!』『おかおになあれ!』 ふじもとのりこさん インタビュー

ふわふわのスポンジに生クリームとつややかないちご、お菓子でできたにっこり笑顔!表紙からとっても美味しそうな絵本、『ケーキになあれ!』と『おかおになあれ!』。この絵本の作者、ふじもとのりこさんは、洋菓子の町としても知られる神戸出身の作家さんです。この絵本がどのように生まれたのか、どんな風にこの美味しそうな絵が描かれたのか、ふじもとさんのご自宅でじっくりお話を伺いました。
おはなし会や読み聞かせでも人気のこの絵本を、最後にふじもとのりこさんご自身に動画で読み聞かせしていただいています。こちらもお楽しみに!

ちちんぷいぷい ケーキになあれ! 美味しい絵本ができるまで

  • ケーキになあれ!

    みどころ

    いろんなくだものに、ちちんぷいぷいと魔法をかけると、おいしいケーキに変身! 最後にくだもの全部、ケーキになあれ……。やさしい色合いの色鉛筆で丹念に描かれた果物やケーキがとてもおいしそうで、幼い子どもたちの心をひきつけます。ページをめくるとどんなケーキが現れるのか、きっとわくわくしながら読んでくれることでしょう。ぜひ親子で楽しんでいただきたい絵本です。

この絵本をはじめて見たとき、あまりに美味しそうなケーキに釘づけになってしまいました! 『ケーキになあれ!』が出版された経緯を教えていただけますか?

私はずっと神戸の児童館に勤務していたのですが、絵本を作ろうと思いたって、児童館を早期退職して神戸のギャラリー・ヴィーの絵話塾(かいわじゅく)というところで絵本を学ぶことになりました。
制作に苦労していたとき、講師だった絵本編集者の松田素子さんが、「上手に描ける人はいっぱいいるけど、美味しそうに描ける人はそんなにたくさんいるわけじゃない」と励ましてくださったんです。それで描きあげた絵本が『このパン なにパン?』(鈴木出版)です。
この本の月刊誌版の出版が決まったときに、松田さんへの出版の報告を兼ねて、次に作っていた『ケーキになあれ!』のダミー(下絵)を見せたのですが、そうしたら、「私がこれ預かりたい」と言ってくださって! ずっと憧れの編集者さんだったので夢じゃないかと思いました。それから1週間も経たないうちに出版が決まったんです。

「ちちん ぷいぷい ケーキに なあれ!!」と「へんしん!」という掛け合いが楽しいです。ページをめくると、くだものがケーキになるというアイディアはどうやって生まれたのでしょうか。

アイディアは、ごく自然に出たものなんです。子どもたちってくだものもケーキも大好きなので、それがリンクする絵本だったら楽しいなと思いました。長く児童館に勤めてきて、子どもたちと掛け合いすることも多かったので、そんな風に読める絵本にしたかったんです。

絵本ナビのレビューでも、おはなし会や読み聞かせでの子どもたちの反応を書かれているものが多いんですよ。どのレビューからも楽しそうな雰囲気が伝わってきます。

ありがとうございます。私は、おはなし会でこの絵本を読むときは、その月のお誕生日の子に、絵本の最後に出てくるバースデーケーキのろうそくを、ふーっと吹いてもらうんです。それで、みんなでハッピーバースデーを歌って拍手するんですよ。

絵本に出てくるくだものが全部のったゴージャスなバースデーケーキ!

それは素敵ですね!

ケーキに立っているろうそくは3本ですが、3歳以外の子もお祝いできるように、ページにはろうそくを多めに描いてあります。「このろうそくを立てられるよ」と言ってね。6歳までいけます(笑)。

実在するケーキにこだわって、明石や神戸、大阪まで足を運びました

このバースデーケーキもそうですが、どのケーキの絵も本当に美味しそうです。

ケーキは、実際に売っているケーキをモデルにしています。ショートケーキらしいショートケーキ、網目の飾りのアップルパイ・・・。明石や神戸、大阪までぴったりのケーキを探して歩きまわりました。

それぞれいろんなケーキ屋さんのものなんですね。

絵本から出てきたようなケーキ!

ショートケーキとロールケーキは、明石の老舗のケーキ屋さんのケーキです。絵本ではロールケーキはそれにバナナを加えて描いています。原画展の様子が神戸の新聞に掲載されたとき、社長さんが絵本を買って下さったそうです。そのお店のパティシエさんたちが私の家に訪ねてこられて、「やっぱりそうだったんですね!」って。自分のお店のケーキだと、絵を見て分かったみたいです。

生クリームのケーキは、夏場に溶けてくるので、溶けて倒れたりしないように、ドライアイスをまわりに置いて描いていました(笑)

絵は色鉛筆で描かれていると伺いました。くだもののツヤや生クリームもすべて色鉛筆なんですか? すごいです!

色鉛筆は白色をほかの色の上に重ねることができないので、白の部分は塗り残しにするしかないんです。だから光っている部分が多いいちごを描くのが1番難しかったです。混色しにくいかわりに色が濁らないので、そこが画材として色鉛筆を気に入っている理由です。120色ある色鉛筆をメインに使っていますが、かなり尖らせて使うので、削って削って、これ以上削れないところまで短くなると「殿堂入り」します(笑)。


愛用の色鉛筆と鉛筆削り

「殿堂入り」の色鉛筆

りんごの表面の細かい点々はどうやって描いているんですか?

これは地色を塗ったあとに、シャープペンの先で押し込んで凹みを作り、その上から赤を塗っています。そうすると凹みの部分を残して塗れるんですよ。オレンジもその技法を使って、さらに凹みの部分に他の色を入れてぼこぼこの質感を表現しています。

とっても緻密に描かれた原画を見せてもらいました

色鉛筆のテクニックは、ずっと勉強されてきた中で身についたものなんでしょうか。

特に習いに行ったことはないのですが、私は大学で日本画を専攻していて、そのとき写生を色鉛筆で彩色していました。なので色鉛筆は自分にとってなじみのある画材だったんです。手馴れているし好きなんですが、色鉛筆での制作は細かくて時間がかかるので、時々反動で、アクリル絵の具や水彩など別の画材でグワーっと大きな絵を描いています(笑)。
画材が変わるとタッチがすごく変わるので、同じ人の絵だと気づかれないくらいです。

いつか藤本さんが別の画材で描かれた絵本も見てみたいです!

子どもたちの「言葉」を育てたいという思いから生まれた『おかおになあれ!』

  • おかおになあれ!

    みどころ

    さくさくクッキー、たべようかなと思ったら、おかおになった!
    とろり、とろけるチョコレート、たべようかなと思ったら、おかおになった! 
    子どもたちの大好きなおかしが、とびきりゆかいな顔に変身する楽しい絵本です。
    リズミカルな文章も心地よく、親子でいっしょに読んでください。

『おかおになあれ!』は、『ケーキになあれ!』の出版後、すぐ出版が決まったんですか?

もともと編集者の松田さんが、「なあれ!」という言葉のつく絵本をシリーズで想定されていたようで、いくつか作ったダミーの中から選んで『おかおになあれ!』を出版することになりました。
出版されたものは、ダミーのときとだいぶ変わっています。お菓子でできた顔はちょっと角度を変えたりお菓子を変えたりするだけで全然違う顔になるので、いくつも描きました。特に表紙の絵は何度も描きなおして苦労しました。

お菓子を使って顔を作るというアイディアは、このときに考えられたのですか?

実は、児童館を退職して一番最初に作ったのが、言葉遊びも交えた「おかしなかお」というダミーで、それがお菓子で顔を作るという内容の絵本だったんです。

 この作品を作ったのには、あるきっかけがありました。

それは、どんなきっかけだったのでしょうか?

私が一時期勤務していた児童館は、小学校高学年の子たちが入り浸っているようなところでした。ちょっと目を離すだけですぐに取っ組み合いの喧嘩を始める子どもたちで、私たち指導員にとって、それはもう大変な毎日でした。
そこでは、言葉が原因の喧嘩がとても多かったんです。言いたいことがうまく伝えられないから手が出るし、自分の心の中を言葉にすることができないから内省にも繋がらない。私はいつも喧嘩が起きたとき、「この子はこう思ってたんやって」とか、「でもそういう風に、とらえられへんかったらしいで。」なんて、間に立ってその子たちが伝えたいことを翻訳していました。子どもにとって言語能力が弱いことで社会的な不利益がたくさんあると感じた私は、子どもたちの「言葉」を育てたいと思うようになりました。そのとき思い当たったのが絵本だったんです。

言葉を育てる絵本ですか?

はい。絵本は言葉と絵が両方入っているので、言葉に対するイメージ力が弱い子にも内容が伝わりやすくて良いんですね。けれど、普段本を読まない小学生を絵本に向かわせるのは難しい。
そういう子どもたちが「お、この絵本おもしろいで。ちょっと見てみようか。」って思うような絵本がほしかったんです。
私は絵本を作ろうと、その子たちがずっと通っていた駄菓子屋さんに行って、お菓子をいっぱい買い込んできました。自分たちが食べているおやつが出てくることで、「これ昨日食べたやつやねん」「安物や。徳用袋のやつやん」なんて話をしながら、なんとなく興味を持って本を手に取ってくれたらいいなと(笑)。
そのお菓子をもとに作ったのが1番最初のダミー「おかしなかお」です。
『おかおになあれ!』は、出版されるにあたって対象年齢を下げたので、内容は大きく変わっているのですが、この絵本の原点はそこなんです。

もともとは児童館に来る子どもたちへ読むことを想定して作られた絵本だったのですね!

現場で使える絵本を作りたいなというのはあったと思います。『おかおになあれ!』は乳幼児向けの絵本として出ていますが、乳幼児はもちろん、小学校の低学年で本をあんまり読んだことのないような子たちにも読んでほしいと思っています。私は、絵本の対象年齢は、下限があっても上限はないと思っているんです。

そうですね。小中学生も、大人も、絵本を楽しむことができますよね。

実は、私の高校生のときの美術の先生は、めずらしく生徒たちに絵本の読み聞かせしてくれる先生でした。そのときに見た『もこもこもこ』(作:谷川 俊太郎 絵:元永 定正 出版社:文研出版)や『いないいないばあ』(文:松谷 みよ子 絵:瀬川 康男 出版社:童心社)などの絵本は、高校生から見ても素晴らしくて、文章にしても絵にしても隙がなかった。どんな年代の人が見ても、例えば絵を描く人間の目から見てもやっぱり優れてる絵本って優れているんですね。そのときに絵本のすごさを体感させてもらった気がします。『おかおになあれ!』も年齢問わず手に取ってほしいし、お話を聞くだけじゃなくてやりとりが楽しめるような絵本として読まれたらいいなと思います。

私も「これ、あのお菓子だ!」「これ好き!」なんて、まわりと話しながら読みました

ダミーでは駄菓子をたくさん描いていましたが、『おかおになあれ!』は、駄菓子ではなく全国どこの地域でも手に入りやすいものということで選定しなおしています。

ふじもとさんは『おかおになあれ!』の読み聞かせでは、子どもたちとどんなやりとりをされていますか?

お菓子が並んでいるページで、「どれが目になると思う?」っていうのをクイズにして、ページからお菓子を選んでもらって遊んだりします。はずれても、「はずれ!でもこっちのページだったら正解〜!」なんて言ったりすると盛り上がるんです。


クイズになるんですね。それは、楽しそうです!

この絵本を使ってワークショップもしています。お菓子を回りにいっぱい並べて、子どもたちに紙皿を1枚渡して、「お菓子で作ろう“おかお”コンテスト」なんてやるととっても面白いです。お菓子の上にお菓子を積み重ねて立体の顔を作る子とか、食べていくと表情が変わっていく顔を作る子とか。大人には考えつかないとんでもないものができてきますから(笑)。

絵本からいろんな遊びが発展していくことにワクワクしますね。

児童館は、遊びを通しての児童の健全育成の場なので、絵本も、遊びに発展させるということが自分の中ではすごく自然なことだったんだと思います。もちろんしみじみ読む絵本も大好きなんですが、現場でわーっとみんなで盛り上がる絵本がもっとたくさんあるといいなと思ってこの絵本を作りました。私の絵本は、文章も、そのままでなくてもその場の雰囲気で読んでくださればと思います。自由に遊んでいただけると嬉しいです。

ありがとうございました!

よみきかせ&インタビュー動画 公開中!

インタビュー・文: 掛川晶子
撮影:所靖子

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