ひぐま
- 作:
- あべ 弘士
インタビュー
2026.01.19
街中にもクマが出没するようになり、頻繁にニュースで報じられた2025年。元旭山動物園飼育係として長年動物と向き合ってきた絵本作家のあべ弘士さんが、絵本『ひぐま』(ブロンズ新社)を出版しました。ヒグマの冬眠と子育てをテーマにした作品で、そこには人間と変わらない、ヒグマの子育てへの思いがあります。朝日新聞社の本の情報サイト「好書好日」より、作者・あべさんのインタビューを紹介します。
(インタビュー・写真:日下淳子)
この人にインタビューしました
1948年北海道旭川市に生まれる。 1972年から25年間旭山動物園の飼育係として、ゾウ、ライオン、フクロウなどさまざまな動物を担当する。 1996年旭山動物園を退職し、創作活動に専念する。 2009年北海道旭川市美術館にて「あべ弘士動物交響楽」展を開催。 その後、全国で作品展開催。 『あらしのよるに』(きむらゆういち文・講談社)『どうぶつえんガイド』(福音館書店)『ハリネズミのプルプル』(二宮由紀子文・文溪堂)『宮沢賢治「旭川。」より』(BL出版)『クマと少年』(ブロンズ新社)『ちび竜』(工藤直子文・童心社)『えほんなぞなぞうた』(谷川俊太郎文・童話屋)など著書は200冊以上。講談社出版文化賞絵本賞、産経児童出版賞JR賞、赤い鳥さし絵賞、産経児童出版文化賞美術賞、北海道ゆかりの絵本大賞、日本児童ペンクラブ児童ペン賞絵本賞を受賞など受賞多数。 2011年からNPO法人かわうそ倶楽部を設立、旭川市(7条通8丁目)にてギャラリープルプルを運営する。 2019年、絵本作家30周年記念として「あべ弘士の絵本と美術 ―動物たちの魂の鼓動―」(ふくやま美術館:広島)開催。カムチャッカ半島から千島列島を旅し、長年の夢であったウシシル島を訪れる。カナダノースウッズを訪れ、30sの荷物と20sのカヌーを担ぎながら湖を巡る。旭川市在住。
――ヒグマについての絵本を出そうと思ったきっかけは何ですか?
前からヒグマについて描こうと思っていて、5年ぐらいかけて構想を考えていたんだ。クマの出没が話題になったから絵本を出そうと思ったわけではないんだよ。元々ヒグマとは、70年前から付き合っている。私が生まれたときから、うちの裏の山にはヒグマがすんでいたからね。
北海道の人は、ヒグマは恐怖の隣人だってわかっているから、なるべく山に入らない。ヒグマと共生してきたアイヌの人たちも、ヒグマに対する尊敬や畏怖の気持ちを持っている。
だから、クマに対する警鐘を鳴らしたいわけじゃない。事実を知ってほしいんだ。今回の絵本は、ヒグマのお母さんが、冬眠中にちっちゃなちっちゃな赤ちゃんを産んで、一切食べず、一切飲まずで約6カ月間、巣穴で赤ちゃんを育てる話を描いた。産んだときはたった500グラムという2頭の赤ちゃんが母グマに大事に大事に育てられて、春になると5キロにも大きくなって巣穴から出てくるんだよ。
巣穴から出てきた子どもたちが、光の中の春の景色に感動する様子をどんなふうに描こうかなと思った。真っ暗な巣穴でも、音は聞こえると思う。キツツキの木を突く音が聞こえるだろう。3月に発情期を迎えるキツネの鳴き声が聞こえるだろう。それがどんな動物なのか、春にはじめて出会った子グマの表情はどんなふうか考えた。子グマは目がくりんとして本当にかわいいんだよ。
でも最近は、冬眠前は山だったところが、冬眠から覚めて外に出るとコンクリートの住宅地だったりする。クマの親子はどこへ行っていいかわからない。母グマは絶対に子どもを守るという気持ちが強くて、人間とトラブルになりやすい。山のもっと奥に入ればいいと言うが、そこには雄グマが暮らしている。クマの世界はお父さんのクマは存在しなくて、子育ては母グマだけがする。単独の雄グマは子どもをおそうことすらある。だから若いクマ、母子グマは行き場がなくなってしまうんだ。
――絵本の最後は、「こぐまたち おおきく おなり。ずっと みてますよ。」という言葉で終わっているのですが、これは読者への問いかけの気持ちでしょうか?
この問いかけに関してどう感じるかは、読者に委ねる。ただ、私としては、これは「神様の声」だと思っているね。あべ弘士の声でもなく、母親の声でもない、自然界からの声。
絵本文中に出てくる「さむくなってきたなと おもったら、やはり ゆきです。」というような文も、“自然”が言っている。クマの言葉以外は、大いなる存在の自然の言葉として全編を貫いているね。都会で暮らしていると人間と動物というところしか見えにくいと思うけれど、自然が作っているものは、人間にはどうにもできないものを感じるんだよ。
北海道は10月の末になると、もう一面雪の世界になってしまう。その時、雪の中に、あの巨大なヒグマが消えるんだ。アイヌの人は、「冬眠のために姿を消す」じゃなく、「消える」っていう表現を使う。そして雪が溶けると同時に、新しい命を連れて出てくる。「復活する」、素敵な考え方だね。
アイヌでは、ヒグマは最高の神様。ヒグマは動物の毛皮をかぶって降りてくる神様で、クマ狩りのことも「神様を迎えに行く」と言う。母グマを狩った後、一緒にいた子グマを村で大切に育てて天に返す「イオマンテ」という儀式があるんだ。そういう文化も伝えたいと思って、以前『クマと少年』(ブロンズ新社)という絵本も作った。だから絵本を作るとき、アイヌの人たちにはいろんなことを教えてもらったな。
――絵本『ひぐま』には、付録として「ひぐま しつもん箱」のリーフレットがついています。ヒグマがすんでいる場所や食べるもの、冬眠について、質問に答えるような形でわかりやすく描かれていますが、こちらはなぜ作ったのでしょうか?
絵本では、ヒグマの生態についてはそんなに描いてないんだよね。母子グマの冬眠のことがメインだから。もうちょっと今のヒグマの生態や体のしくみのことを知りたいという読者がたくさんいるだろうと思って、リーフレットを作ったんだよ。動物園の飼育係時代は、こういう冊子をたくさん作っていたからね。
難しかったのが、やっぱり現在のクマと人間のトラブルのところかな。研究者じゃない私が、あんまり感情的なこと言うと間違っちゃうこともあるしね。ヒグマの研究をしている友達にも見てもらったんだ。彼は「私たちは動物の弁護士なんだ」って言ってるよ。私も言っている。
北海道ではよくあるんだ、クマが列車にはねられる事故が。そしてニュースで「列車の中で人が12時間も閉じ込められた」と報道する。やっと列車から出られたという話をして、それでおしまい。はねられたヒグマはどうしたの、ヒグマの方もちゃんと報道してよと思う。ヒグマも人間も生きるということについては同じはずだ。どちらも困っている。
こういう絵本のような形で一般の人に伝えるのは、研究者や学者よりも私の方ができるんじゃないかと思って描いている。「ああ、子グマはかわいいね」とか「こんなに小さく生まれるんだ」とか言いながら、長い間母子で穴の中にいるんだということを絵本でまず知ってくれたらいいと思う。そして、母グマは子どもを守ることに対してデリケートであって、いかに神経質かということを、どこかで覚えていてくれたらと思うね。
みどころ
赤や黄色に染まり輝く秋の山で、木の実や果物をもくもくと食べ続けているのは、ひぐま。沢山食べておかなくてはならない理由があるのです。
やがて雪がふりはじめ、森がすっかり銀色の世界になった頃。ひぐまの姿がありません。どこへ消えたのでしょう。
すると、雪の下から声が聞こえてきます。ひぐまの赤ちゃんです。雪の下にある暗い巣穴の中で、おかあさんのおっぱいをたくさん飲み、どんどん大きくなっていきます。
「かあさん、はるって なに?」
「はるって おいしいの?」
ようやく春がやってくると、こぐまは光あふれる世界へと飛び出していき……。
旭山動物園の飼育係として25年間働いた経験を持つ絵本作家・あべ弘士さんが、野生のひぐま親子の濃密な時間を描いたこのお話。ひぐまのお母さんが、冬眠中に小さな赤ちゃんを産み、飲まず食わずで6か月間、巣穴の中で赤ちゃんを育てていく様子を、北海道の美しく豊かな自然を背景に、愛嬌たっぷりに見せてくれます。
長く共存してきたからこそ、ひぐまに対する尊敬や畏怖の念を持っているというあべさん。知ってもらいたいのは、ひぐまがどのように生き、次の世代に命をつないでいるのかという事実。絵本だからこそ、伝えられるその姿。印象的な場面の数々から、子どもたちにもあらゆる生きものの命と向き合ってほしいという真摯な願いを感じることができるのです。
付録についているリーフレットは「ひぐま しつもん箱」。子どもたちの質問に答える形で、ひぐまについての生態を、さらに詳しくわかりやすく知ることが出来ます。
この書籍を作った人
1948年北海道旭川市に生まれる。 1972年から25年間旭山動物園の飼育係として、ゾウ、ライオン、フクロウなどさまざまな動物を担当する。 1996年旭山動物園を退職し、創作活動に専念する。 2009年北海道旭川市美術館にて「あべ弘士動物交響楽」展を開催。 その後、全国で作品展開催。 『あらしのよるに』(きむらゆういち文・講談社)『どうぶつえんガイド』(福音館書店)『ハリネズミのプルプル』(二宮由紀子文・文溪堂)『宮沢賢治「旭川。」より』(BL出版)『クマと少年』(ブロンズ新社)『ちび竜』(工藤直子文・童心社)『えほんなぞなぞうた』(谷川俊太郎文・童話屋)など著書は200冊以上。講談社出版文化賞絵本賞、産経児童出版賞JR賞、赤い鳥さし絵賞、産経児童出版文化賞美術賞、北海道ゆかりの絵本大賞、日本児童ペンクラブ児童ペン賞絵本賞を受賞など受賞多数。 2011年からNPO法人かわうそ倶楽部を設立、旭川市(7条通8丁目)にてギャラリープルプルを運営する。 2019年、絵本作家30周年記念として「あべ弘士の絵本と美術 ―動物たちの魂の鼓動―」(ふくやま美術館:広島)開催。カムチャッカ半島から千島列島を旅し、長年の夢であったウシシル島を訪れる。カナダノースウッズを訪れ、30sの荷物と20sのカヌーを担ぎながら湖を巡る。旭川市在住。