ネコノテパンヤ
- 作:
- 高木 さんご
- 絵:
- 黒井 健
- 出版社:
- ひさかたチャイルド
絵本紹介
2026.02.19
“猫は絶対的な正直さを持っている”そんな言葉を残したのは、愛猫家だったアメリカの作家アーネスト・ヘミングウェイ。静かな佇まい、何かをじっと見つめる瞳、気まぐれのような甘え、無防備な寝転び……言葉が通じない私たちは観察することしかできないけれど、その姿に幾度となくときめき、癒され、問いかけられて。不思議な存在ですね、猫って。
今回は猫好きさんをはじめ、そうでない人も猫への憧れが深まるような、美しい絵本をご紹介します。
おまえはいいよな、おれも猫になりたいなぁ−−学校じゃない、自由などこかへ行きたいと思う少年にいつかの自分を重ねてしまう『せかいは すきで あふれてる』。人気絵本『わすれていいから』に続き、大森裕子さんが描く猫と少年の不思議な物語です。
雪でできた猫ユキは、小鳥との出会いをきっかけに春に憧れを抱きます。でもそれは避けられない運命とも向き合うこと−−。繊細な色彩感覚が海外での評価も高い刀根里衣さん最新作『春に恋したねこ』は、美しい絵と言葉で、生と死、命の循環について、やさしく問います。
2月22日は猫の日。たくさんの猫の絵本のなかで、大人の胸にささる一冊もぜひ。
みどころ
坂の途中にある小さなお店、『ネコノテパンヤ』。猫の手のように小さなパン屋さんです。お店の中はいつも、お母さんの焼いたパンの美味しいにおいでいっぱい。
ある日、お母さんが配達に出かけるので、ななえは一人で店番をすることに。すると霧が出てきて、お店のまわりは何も見えなくなりました。急に心配になってきたその時。“カラ〜ン コロ〜ン”。お客さんです。何を買おうか迷っているので、ななえが大好きなクリームパンをすすめると、帽子の下の顔から長く伸びたひげが見えます。
「えっ? もしかして ねこ?」
満足そうに帰っていくお客さんを見送ると、今度はフード付きのコートのお客さん。コートからはみだしているのは、しっぽ。 また……!?
みんなが嬉しそうにパンを買っていくので、ななえはしっかり役目を果たします。だけど不思議なお客さんばかり。深い霧に包まれながら、ぼんやり考えていると「ただいまぁ」。帰ってきたのはお母さん。そして言うのです「今のお客さん……」。
沢山並んだ民家の間に小さく灯りが漏れる店構え、遠くに見える海の方へ下っていく坂、霧に包まれ霞んで見える街並み。なんだか映画を観ているような、懐かしくもワクワクする素敵な景色。それもそのはず。絵本の舞台となっているのは、沢山の映画に登場してきた坂と猫の町、尾道(おのみち)。そこには『ネコノテパン工場』という小さなパン屋さんも実在しているのだそう! 実際にスケッチをしながら生まれてきたのが、このさりげなくも愛らしいお話なのです。
美味しいにおいに誘われて、気が付けば絵本の中の時間にふと迷いこみ。読み終わればどこか旅にでも出ていたような豊かな気持ちになれる。そんな上質な一冊だと思います。
この書籍を作った人
千葉県銚子市生まれ。日本児童書出版美術家連盟会員。作品に『ぱんぱんぱんつ』『しろくもちゃん』『テレビごっこ』『せんたくねこさん』(ひさかたチャイルド)、『つきをあらいに』(絵:黒井健 ひかりのくに)、『おつきさんのぼうし』(絵:黒井健 講談社)がある。
この書籍を作った人
1947年新潟県生まれ。新潟大学教育学部中等美術科卒業。児童出版美術家連盟会員。主な作品に『ゆきのひのころわん』他ころわんシリーズ(ひさかたチャイルド刊)『手ぶくろを買いに』『ごんぎつね』(偕成社)『おかあさんの目』(あかね書房)他多数の作品がある。
この書籍を作った人
1974年神奈川県生まれ。東京藝術大学大学院在学中よりフリーランスで活動をはじめる。主な絵本に、『おすしのずかん』『パンのずかん』『ねこのずかん』「へんなえほん」シリーズ(白泉社)、「よこしまくん」シリーズ(偕成社)、『ぼく、あめふりお』(教育画劇)、『チュンとカァのじゃんけんぽん!』(PHP研究所)、『どうぶつまねっこたいそう』(交通新聞社)など多数。
出版社からの内容紹介
春を待ち望む気持ちは、どうしてこんなにも切なく、あたたかいのだろう。
本作は、冬から春へと移りゆく季節のなかで、「命の循環」「別れと再生」という普遍的なテーマを、やさしく静かに描いた絵本です。
主人公は、冬の妖精たちによって生み出された、まっしろな猫「ユキ」。
雪でできた存在であるユキは、小鳥との出会いをきっかけに、まだ見ぬ「春」という季節に強く心を惹かれていきます。
色にあふれ、あたたかさに満ちた世界――その憧れは、同時に、避けられない運命とも向き合うことを意味していました。
この絵本が描くのは、「死」や「別れ」を恐ろしいものとして突きつける物語ではありません。
消えてしまうこと、失うことを、終わりではなく、かたちを変えてつながっていくものとして見つめ直す視点が、全編を通して静かに流れています。
雪が溶け、大地に還り、また次の季節へと受け渡されていくように、命もまた循環していく??その感覚が、言葉と絵の余白から自然と伝わってきます。
作者は、イタリアと日本を拠点に活動する絵本作家・刀根里衣。
国際的に評価されてきた繊細な色彩感覚、とりわけ印象的に使われる「青」は、本作でも重要な役割を果たしています。
本作は、「死ぬことがこわい」という率直な問いに向き合うなかで生まれた一冊。
悲しみを無理に乗り越えさせるのではなく、そっと隣に座り、考える時間を差し出してくれる絵本です。
悲しさの中にも、確かに希望はある。
生や死について、やさしく考えたい、伝えたい??そんなすべての人の心に、静かな余韻を残してくれる作品です。
この書籍を作った人
1984年、福井県生まれ。2007年、京都精華大学デザイン学部ビジュアルコミュニケーション学科卒業。2010年、製作した絵本のサンプルが、ボローニャ児童書ブックフェアの会場でイタリア人編集者の目にとまり、翌年、絵本作家としてデビュー。それを機にイタリアに渡り、ミラノを拠点に創作活動を行っている。本書は、2012年にボローニャ国際絵本原画展に入選した「まほうつかいうさぎと100のコーヒー」を絵本化した作品である。2013年には同原画展において国際イラストレーション賞を受賞。幻想的、かつ繊細な筆致が高く評価され、メディア等でも話題となる。その受賞作を絵本化した“El viaje de PIPO”(『ぴっぽのたび』)、2匹のネコを主人公にしたハートフルな絵本 “Dove batte il cuore”(『きみへのおくりもの』)、イタリアデビュー作“Questo posso falro”(『なんにもできなかったとり』)の日本語版は小社より刊行。いずれも読者より大きな反響を得ている。
この書籍を作った人
青山学院大学文学部英米文学科卒業。やまねこ翻訳クラブ会員。絵本の翻訳に『おばけやしきなんてこわくない』(国土社)、『神々と英雄』『ころころコアラちゃん』(大日本絵画)、『クララ』『介助犬レスキューとジェシカ』『カールはなにをしているの?』(BL出版)など多数。東京都在住。
みどころ
舞台は古代ローマ。家ねことして幸せに暮らすミランダは、金色の大猫。
飼い主の女の子クラウディアとその一家に愛され、周囲からも一目置かれて優雅に暮らしていました。
いままでに何度か子猫を生みましたが、一緒にいるのはいまはプンカだけ。
プンカはまだ1歳ですがすでにりっぱな銀色の大猫です。
ある日ローマに蛮族が押し寄せてきて、火事とがれきの町にミランダとプンカは取り残されることになります。
炎の中を逃げながら、33匹もあかんぼう同然の子猫を助け、連れて歩くことになり……。
しかもこのときミランダのお腹の中には、今日生まれるか明日生まれるかというあかちゃんがいたというのに!
まったく、このミランダという猫にはびっくりさせられどおしです。
ストーリーはクラウディア一家と生き別れたミランダ、プンカが、最大の危機を見事にやりすごしたのち一家と再会するまでの冒険譚です。
古代ローマという一風変わった舞台設定に、不思議な引力を感じつつ、猫たちの世界にみるみるひきこまれていきます。
作者エレナー・エスティスは『百まいのドレス』や「モファットきょうだい物語」シリーズ(共に、岩波書店)など読み応えのあるおもしろい作品を生むストーリーテリングの名手。
そして古代ローマで自立して生きる猫たちを挿絵で描いたのはエドワード・アーディゾーニ。
『チムとゆうかんなせんちょうさん』などの絵本がありますが、ファージョン作品集『ムギと王さま』『年とったばあやのお話かご』などでは、陰影のある線描の挿絵で、時を超えて私たちを魅了してくれます。
母猫ミランダが、まだ甘えたいお姉さん猫プンカを「イオ!」と褒めたり「ウォウオ」となだめたりしながら、自らの片腕として育てていく一面も楽しめます。
この作品が書かれた当時1967年頃にはまだローマのコロッセオには野良猫がたくさん住み着いていたそう。(いまは他の場所へ移されボランティアによって世話をされているそうです。)
2千年以上前にこんな物語があったのかもしれないと思うとわくわくしませんか?
ミランダが崩れたコロッセオで、柵の中の雌ライオンと取引する場面は、まさに最高のハイライト!
小学校3・4年以上におすすめの読み物本ですが、大人も十分楽しめる一冊です。
ゆうかんな猫ミランダの野性と誇り高さに拍手したくなります!
この書籍を作った人
(1900-1979)イギリスを代表する画家。代表作『チムとゆうかんなせんちょうさん』をはじめとする絵本作家として、また、ファージョンの『ムギと王さま』『年とったばあやのお話かご』など挿画画家としても高い評価を受けており、数多くの美しい本を残しています。1970年にはロイヤル・アカデミー会員にも選ばれました。 写真は、英国南東部ロドマーシャム・グリーンにある自宅の書斎における、晩年のエドワード・アーディゾーニ。次男ニコラス・アーディゾーニが1978年に撮影。
文/竹原雅子 編集/木村春子