谷川俊太郎さん推薦! 黒い夜の森を捨て、旅に出る動物たち……移民の旅の現実を描くサイレント絵本
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絵本紹介
2021.09.03
猛暑が過ぎ、朝夕にはっきりと秋の気配が感じられるようになってきました。秋は芸術――ということで、絵や造形の美しさ、ポップなデザインが楽しめる絵本を集めてみました。朝日新聞社の本の情報サイト「好書好日」の記事よりご紹介します。(文:好書好日編集部)
『Michi』『の』の2作で新しい発想の絵本を生み出し、にわかに注目を集める絵本作家のjunaidaさん。3冊目となる『怪物園』(福音館書店)は、ページをめくるごとに怪物と子どもたちが現実と空想の世界を行ったり来たり。読んでいると自分がどこにいるのかわからなくなる、不思議な感覚の絵本です。junaidaさんといえば、注目は圧倒的に美しい絵。今回は物語の導入と終わりに余韻が続くよう、ブックデザインにも工夫を凝らしています。絵本そのものがアートといったたたずまいの一冊です。
ぼくは、絵を見たり描いたりするときに、リズムが頭に浮かびます。本を作るときには言葉のリズムだけではなくて、ページをめくるときのリズムの変化であったり、そういうものを、イメージして作ります。たとえば美術館で絵を見るときもそうなんですが、自分の好きな絵にはビートのようなものが感じられるんですよ。そこに流れている感覚的なテンポというか、どう言葉にしたらいいかわからないんですけど、音楽的なものだけじゃない、雰囲気や流れに付随するリズムのようなものは意識しています。
(junaidaさんのインタビューより)
物語の世界に散りばめられた様々な探し物を見つけていく、山形明美さんの絵本「どこ?」シリーズ(講談社)。造形作家の山形さんらしく、1シーンずつジオラマを制作し、それを撮影した写真で構成しています。ジオラマの制作はとても細かく地道な作業。シリーズ5作目の『どこ? ながいたびのさがしもの』ではひつじを100匹、葉っぱを3570枚作ったといいます。1シーン分のジオラマを作るのに1〜2カ月、1冊作り上げるのには2年かかるそうです。
「どこ?」の特徴は、どこかへ行って帰ってくる、旅の物語でもある、ということ。探し物の絵本ではありますが、一切探さずに物語だけ読み進んでも、十分楽しめるように作っています。でも子どもたちは、本当に探し物が好きというか、隅々までとてもよく見ているんですよね。見つけたときの喜びを味わえるというのは、普通にお話を読む絵本とはまた違った、探し物絵本ならではの面白さだと思います。
(山形明美さんのインタビューより)
ある夏の日、おじいちゃんのうちへ遊びに行った太郎くんは、庭や畑のまわりにたくさんの草花を見つけます。ヒメジョオン、トキワハゼ、イヌビエ、スズメノカタビラ――。長尾玲子さんの『ざっそうの名前』(福音館書店)は、太郎くんと一緒に身近な植物の名前を覚えることができる絵本です。それぞれを表現するのは、絵ではなく刺繍。「もともと絵を描きたかったのですが、絵の具などでは思うように描けなくて、でも刺繍は思い通りにできたんです」と長尾さん。刺繍を刺すときの微妙な力加減、繊細な色使いに注目です。
メーカーによって微妙に色が違うので、例えば、白色は3社から出ている7色を使い分けています。緑色もさまざまです。どれも本当にきれいなので、刺すときにモチベーションが上がるというか、高揚感を覚えます。色選びは描く上で一番大切なので、午前中の光の中で色を決めて、夜作業することが多いです。そう言うと笑われたりするんですけど、やっぱり朝と夕方では色が違うような気がします。
(長尾玲子さんのインタビューより)
グラフィックデザイナー、中村至男さんが初めて手がけた『どっとこ どうぶつえん』(福音館書店)。四角を組み合わせた「ドット絵」で動物が表現された、斬新な視覚表現の絵本です。小さいころからインベーダーゲームやスーパーファミコンなどで「自然と体にしみついている表現」だったというドット絵。ドットの色や配置、他のものとの関係性で「そう見える」のがおもしろい、と中村さんは語ります。
現代では、いろいろなものに説明が行き届いていて、「至れり尽くせり」ですよね。でも、一見分かりにくいものでも、「うーん」と興味を持ってものを見るほうが、記憶に残ると思うんです。少ないドットで描いたゾウの絵と、数千万画素のゾウの写真、どちらがよりいきいきとゾウが見えるかというと、実はドット絵のほうかもしれない。抽象化された形を見立て、脳内で初めて「ゾウだ!」と見えたときの喜びは、心にくっきりと刻まれると思います。
(中村至男さんのインタビューより)
アメリカで1981年に創業した、赤ちゃん向けの知育おもちゃブランドSassy。ポップな色使いやデザインが人気で、世界45カ国に展開しています。実はこのおもちゃ、発達学と児童心理学の専門家を含んだ開発チームにより、発達心理学の研究を取り入れて作られています。それを二次元の絵本に落とし込んだのが、『にこにこ』(KADOKAWA)。絵を手がけたデザインチーム「LaZOO」は当初、戸惑ったと言いますが、2016年に発売されて以来、シリーズ累計で68万部という大ヒット作になっています。
赤ちゃんは白黒の世界からだんだん色が見えてきます。例えば生後3カ月だったら、そろそろ赤が見えてくる。だからその時期に初めて“赤”が見えるというのは「驚き」なんですね。Sassyはその驚きの積み重ねが情緒を作っていく、という考えから作られたおもちゃなのです。ただ特定のキャラクターがいたり、そのデザインの細部まで厳しい規定があるブランドではありませんので、絵本の企画に合わせてオリジナリティを出すことができました。
(監修・PRを担当した石川美和子さんのインタビューより)