みなさんは眠る時間、どんな絵本を読みますか? 冒険物語? ユーモア絵本? しっと りと優しいおはなし? 植田真さんの新作『おやすみのあお』は眠りの時間、見ることのできない外の世界を感じさせてくれる、おやすみ前にピッタリの一冊です。今回は、植田真さんと共に『おやすみのあお』の装丁を担当したデザイナーの羽島一希さんにもおはなしを伺い、作家とデザイナーの視点から、1 冊の絵本について教えていただきました。 植田さんにおはなしを伺うのは、前作『まじょのデイジー』以来。ファン待望の新作の登場、ご期待ください。
●いろんな「あお」の習作を重ねて、『おやすみのあお』は生まれました。
───植田さんはデビュー作の『スケッチブック』で白を効果的に使った清潔感あふれる詩的な世界、前回おはなしを伺った『まじょのデイジー』では、女の子の心をキュンキュンさせるカラフルな世界と、毎回、新しい世界観を私たちに見せてくれます。今回の『おやすみのあお』は、今までのどの作品とも異なるタッチで、青の世界に魅了されました。植田さんにとって、「青」には特別な思いがあるように感じました。
ぼくは定期的に個展を行っているのですが、ある時期、青が自分の中ですごく重要な、決め手として使われる絵を描いていたときがありました。そんな経緯があり、青を使った絵本を作ってみたいと思ったんです。
───「青」と一言にいってしまうのがもったいないくらい、色んな「青」がこの絵本には登場しますよね、しかもこの「青」の持つ印象を断定することはなく、読む人によって、 温かい雰囲気にもなったり、切ない雰囲気にもなったりするのが、とても新鮮な感覚でした。「おやすみ」と、あえて時間を限定したのはなぜですか?
実は、この絵本は、今とは違ったテキストがありました。「おはよう」や「ゆうぐれ」など、1 日の時間の流れを「青」で表現したもっと普遍的なものだったんです。でも、原画制作に入る段階になって、自分の中にある、ぼくが個人的に感じている青があるんじゃないか...という思いがあり、そこに向かうために、一度、すべてを白紙にして、「おやすみ」という限定した言葉の中から、ぼく自身の青を探すことをはじめました。
───1日の流れの中で見つける「青」のおはなしもとても気になりますが、植田さんが「おやすみ」に意識を集約して生み出したからこそ、青の表現がより多彩になったんだな...と感じました。ラフまでできあがっていた作品を、ゼロからやり直すというのはとても大変な作業だと思うのですが、具体的にどんな形で作品を作っていったのですか?
───おはなしが先にあったのではなく、絵が先に生まれて、そこからおはなしを作り出すという、通常とは逆の手法を使ったんですね!
───森の中だったり、湖のほとりだったり、 草原の中の一軒家だったり、色んな「おやすみのあお」を垣間見れる感じが、すごく心地よいんですよね。先ほど、青を表現するために何枚も絵を描いたとおっしゃっていましたが、1 冊の絵本を作るにあたり、どのくらい作品が生まれたんでしょうか?
作品というよりも、色々な形の習作ですね。それら習作と自分の中の親密な「あお」によって、この絵本の世界が形作られて行きました。
───どのページの絵も大胆なタッチと繊細なタッチが絶妙にマッチしていて、ページをめくるたびに、いろんな場所、人々、生き物の「おやすみのあお」を感じられるのですが、細かいところとおおらかなところを描くときの気分はやはり違いますか?
───下絵を描いていないということは、絵の具を乗せてみて、感覚が決まるということですよね。かなり緊張する一瞬だと思うんですが、制作中に音楽を聴いたり、リラックスすることはありますか?
制作中はだいたい音楽をかけています。作品によって聴くものを選んでいます。音楽を流すとその作品にすぐにシフトできるという...僕にとってチャンネルみたいな役割ですね。
───『おやすみのあお』のときはどんな曲をかけていたんですか?
ベンジャミン・ブリテンの「青少年のための管弦楽入門」をずっとかけていました。好きな映画の中で使われていた曲で、この絵本にピッタリかな...と思いました。