●「最初にイメージしたのは、森の中の海賊船でした」
───「こそあどの森の物語」シリーズ20周年、本当におめでとうございます。今日は20年を振り返る形でおはなしを伺えたらと思っています。20年前「こそあどの森の物語」はどのように生まれたのでしょうか?
一番はじめに思い浮かんだのが、森の中に海賊船がある景色でした。そこから想像が膨らんでいって、ぼくらは一人一人が海賊船なんじゃないかと思ったんです。
───私たちが、海賊船…ですか?

そう。海賊船は出会った船とか立ち寄った港とかで奪い合うけれど、ぼくたちも誰かと関係を持つとき、ある部分を奪い奪われという関係になるんじゃないか…と。もちろん、支え合うこともあって、良いにしろ悪いにしろ、お互い何かしら影響し合うんですよ。そういう気持ちが生まれて、森の中に海賊船があるのは良いなって思ったんです。 それまでずっと僕は、こちらの世界から、どっかへ行って、何かが起こるとか、こちらの世界に不思議な世界がやってきて、何かが起こる…というおはなしを描いてきて、そろそろ、不思議な世界の中で起承転結がまとまるようなそういう物語が描けないかな…と思っていたんです。
───たしかに岡田さんの書く作品には学校などの日常の世界を舞台にしたおはなしが多いですよね。
せっかく不思議な世界の話を書くなら、何でもありの世界にしようと思いました。それと、シリーズにしたいとも。もしかしたら、トーベ・ヤンソンの「ムーミン谷」シリーズやアーサー・ランサムの作品が頭の隅にはあったかもしれないですね。
───「こそあどの森の物語」シリーズは「日本のムーミン谷」と言われていると伺いました。
それは神宮輝夫(※)さんが言ってくれたのかな。すごく光栄ですね。そんな感じでイメージが湧いてきて、手はじめにスケッチブックにメモを残す感じで絵を描きはじめたんです。
※神宮輝夫…翻訳家、児童文学研究者。『かいじゅうたちのいるところ』の翻訳など、訳書、研究書は多数に及ぶ。

───これが、そのスケッチブックですね! 森の中の海賊船、ウニマル! しかも横にスキッパーがいる!
スキッパーはあんまり世間に打ち解けないような少年で、笑わない。当時のメモ書きに「笑うと歯がすいている様に見える。それでスキッパーなのか、Skipper(船長)なのかさだかでない。」と書いてありますね。
───スキッパーって「船長」という意味なんですか?
大きい船ではキャプテンですが、ヨットなんかではスキッパーって言うんですよ。
───大きな耳はこのころから続いているんですね。
耳の大きな存在というのは「聞く」ことが生きていくうえでとても重要になります。ウサギも耳で聞いて身を守る。スキッパーたちの耳が大きいのは、戦いとは対極にいる存在という思いがぼくの中にあって、だから耳は大きくなければいけないんです。「聞く」っていうことは「受け止める」ってことの代表だとも思っていて、そういう平和主義をイメージしているんです。

───よく見るとシッポがあるように見えますが…。
こそあどの森の住人は、最初はみんなシッポがあったんです。でも、やがて退化していって…おはなしが完成する頃にはなくなりました。こうやって、スケッチブックに描いているうちに、第一話の出だしはドーモさんがやってくる場面にしよう、最初にポットさんの家に行くことにしよう…と話がまとまってくるんです。
───ドーモさんはシリーズの中で唯一、こそあどの森の外からやってくるキャラクターですよね。イヌに似ている容貌なども最初に決まっていたんですか?

ドーモさんははじめ、「テイ・シンキョク」って名前にしようと思っていました。「逓信局」って昔の郵便局ね。でも、この名前は子どもには分からんだろう!と思って今の「ドーモ」にしました。ドーモさん、イヌみたいでしょ? ぼくの中でもまだはっきりとは言えないけれど、気持ちとしては、ドーモさんは町では普通のおじさんなんじゃないか…って思っているんです。こそあどの森に来たら、こういう姿になるんじゃないか…って。
───それはすごい設定ですね。どっちが本当のドーモさんの姿なのか、気になります。 他のキャラクターの最初の設定も教えていただけますか。

これは、ふたごの最初の絵ですね。「ふたりがモモンガごっこをしているところ。」って書いてあります。
───ふたごはちょこちょこ名前を変えていて、楽しいですよね。どういう存在として描かれたんですか?
あの2人はね…自分でも、あんなお菓子ばかり食べていたら栄養も偏るだろう…って思うんだけど(笑)。小学校1〜3年くらいまでの子どもって、遊びだけで生きていたいって思っているんじゃないかというか、そんな子どもの思いを体現化した存在です。でもヨットは上手みたいなね(笑)。
───ふたごの名前はどうやって考えているんですか?
苦しみながら考えています(笑)。ふたごの名前の一覧表を作ったりしているんですが。女の子が好きな物とかそのときでてきた食べ物とかに関連したものを書いています…。11巻は珍しく冒険ものの名前ですね。
───「リビー(リビングストン)」と「シュリー(シュリーマン)」ですね。そして、このシリーズの中でも謎に包まれている存在だと思うのが、スキッパーのおばさんの「バーバさん」。物語の中に名前やどこに行っているかは出てきていますが、全然登場しない。
『はじまりの樹の神話』で一度だけ帰ってきているんですけどね。姿は出てきていないんですよ。
───バーバさんはどんな姿をしているのでしょうか…。
本当におばあさんみたいな人じゃないとは思います。アフロかなにかかもしれませんよね(笑)。イメージはないことはないんですけど…そこはまだ伏せておきましょう。

───やっぱり謎が多い! そしてこれは、トワイエさんの原型ですね。
トワイエさんははじめ、「J.ウノカタ」という名前でした。J.ウノカタは、『星モグラサンジの伝説』の帯に登場した「J.宇野片」なんですが…ローマ字にすると「J.UNOKATA」…「ジュン オカタ」になるんですよ。面白いでしょう(笑)。
───本当だ! 『星モグラサンジの伝説』は読んでいたのですが、分かりませんでした。

読者の方もほとんど気がつかないんですが、そういうしかけをおはなしの中にいろいろ入れるのが好きなんですよ。
───ご自身の名前をつけるくらいですから、やはりトワイエさんは岡田さん自身が反映されているのでしょうか?
「こそあどの森」の住人それぞれが、ぼくの中にある要素だとは思うんですけど、やっぱりトワイエさんが近いかなって思うことが多いですね。
───物語の登場人物を作るときはモデルを決めて書いていますか?
学校の先生をしていたからか、「勤務している学校の子どもたちをモデルにしているんですか?」とよく聞かれますが、ぼくの作品の中で明確にこの子!というモデルにしたキャラクターはいないんです。スキッパーはどちらかというと、色んな子どもたちの色んな部分が入っているキャラクターだと思います。そうそう、スキッパーの性格を考えていたとき、こんな話があってね…。あるとき、6年の子が「先生、おれな、中学校行きたくないねん。働いて、アパートに住むのをしたいと思っているねん。」ってぼくに言ってきたんです。
───そのとき岡田さんはなんて答えたんですか?

ぼくは「中学校はやっぱり行った方がええんちゃうか」って言ったけど、そのとき考えたのは、その子は、学校に行きたくない、家で暮らしたくない、自分で勤めてアパートに一人暮らしたい…つまり学校と家庭の両方を拒否してるってことでした。でも、その子のその思いが特別なんじゃなくて、子どもの中にはそういう夢があるよなって思ったんです。だから、そういう状況に素直にいる子どもを描こうと思った。それが「スキッパー」なんですよ。もっと言ってしまうと、スキッパーは大きな社会からも外れている。刺激的な情報から一切切り離されて、自然の情報だけで暮らしている、ひとつの理想として生み出したかったんです。
───1巻のスキッパーはポットさんが来ても何も答えず、眉をしかめるだけ…という、まさに1人の存在だったと思います。それが巻を重ねるごとにだんだん森の住人たちと関わりを持つようになっていくところが、個人的にはすごく成長を感じられる気がしました。
実は、できるだけスキッパーの成長にはブレーキをかけたいなと思っているんです。今の学校や社会で奨励されているのは「積極的に人と関わって、自分の気持ちを言って、人の気持ちを受け止めていく人間」で、それをぼくも小学校の先生のときはそう言っていたけれど、「自分の世界も大切にしていていいんだよ、それはとっても素晴らしいことなんだよ…」というのもぼくは思うんです。
───そうなんですね…。1巻から11巻までの間で、スキッパーはもちろん、それぞれのキャラクターもどんどん個性が際立っていくというか、意外な一面を見せたり、驚く行動をしたり、どんどん魅力的になっていくように感じました。
ぼくは自分をストーリーの作家だと思っていて、どちらかというと、どう物語を動かすかということに重きを置いて人物を造形していると思います。でも、11巻も書いていくと、色々面白い変化が現れてきますよね。スミレさんなんか特に顕著で、最初は怖いお婆ちゃんみたいに思っていたけれど、子どもの頃は全然違った! とか、実は年上が好きなんだ! とかは、物語を書いていく中で決まってきた設定でもあります。
───そんな個性的な住人が住んでいる「こそあどの森」もとても不思議な森ですよね。最初に「この森でもなければ その森でもない…」というフレーズがパン!と飛び込んできて、すごく惹かれました。「こそあどの森」という名前はどのように考えられたのですか?
「こそあどの森」の名前がなぜ浮かんだかって言われると、難しいんですが…。でも、3か月ほど名前をつけるのに悩みました。「こそあどの森」は最初に浮かんだんだけど、もっといい名前はないか…ってずっと考えていて、「クマのプーさん」の「百町森」のような洒落た名前をつけたかった。とにかく、不思議な森を作りたかったんです。その森の中では何でもありのような。今だったら、「てにをはの森」ってつけるかもしれませんね(笑)。
───「こそあどの森」の方で良かったです(笑)。では、最初に「こそあどの森」をどういうイメージで考えられていたかについても教えていただけるでしょうか。

アトリエに置いてあったウニマルの模型。
講演先の小学校でいただいたそうです。
基本的には捨てられたものがある場所のイメージでした。そこにはヘルメットもあるし、ヤカンもあるし、貝殻もビンもある。そういうところを子どもが目にして、「ここがいえになってね…」といろいろ想像しているようなノリが当時のぼくの中にあったと思うんです。
───貝殻にビンにヤカン…。まさに「こそあどの森」のみんなが住んでいる家ですね。







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