●子どもの“心”をテーマにした12作品
───『モモンガくんとおともだち』は、「すこやかな心をはぐくむ絵本シリーズ」全12巻の第1巻。
シリーズの文章を、くすのきしげのりさんが書くことになったきっかけは何だったのでしょうか?
心の教育についていろんなところで講演されている横山利弘先生(元関西学院大学教授)と、出版社の廣済堂あかつきさんとの間でシリーズ企画の話がもちあがり、僕のところにご依頼をいただいたのがきっかけです。
以前から横山利弘先生のことは存じ上げていましたし、僕自身、小学校の教育現場にいるときから“子どもの心”をテーマにしたお話をたくさん書いていましたので、いつかシリーズをつくりたいという思いがありました。
ですから、企画内容をうかがったときに、すばらしい企画だな、ぜひやってみたいなと思いました。
───教員時代から、“心”をテーマにしたお話のテキストを、書いていらっしゃったのですね。
ええ。当時は、書いたものを、教室で「朝のお話」の時間に読んだり、「道徳」の授業時間にみんなでいっしょに考える材料に使ったりしていました。
学校で使われる道徳の副読本に入っているお話は、教えるべき行動規範がわかりやすく書かれているものが多いのですが、現実にはいろんな状況があるし、子どもたちの心のなかではさまざまな葛藤があるのです。
───なるほど……。
ということは、子どもたちが、いろんなことをいろんな角度から、自分のあたまで考えることが大事なわけです。
シリーズタイトルになっている“すこやかな心”とは、さまざまな状況において“主体的に考えられる豊かな心”だと思っています。
たとえば、『モモンガくんとおともだち』を題材にすると、モモンガくんならば「勇気をもってふみだす心」だけれど、ほかの動物の子どもたちに焦点をあてれば「あたらしいともだちを受け入れる心」。親御さんに焦点をあてれば、「子どもの成長をサポートする心」が見えてくるよね。
いまは教育現場をはなれて作家として活動していますが、僕の原点には、みんなの心がすこやかにはぐくまれるような、楽しい物語を届けたい、という願いがあります。
───具体的には、どのような“心”をテーマに、お話をつくられたのでしょうか。
1巻目のテーマが「勇気をもってふみだす心」、2巻目は「思いやる心」、3巻目は「楽しく働く心」。
そのほか「責任をもってやりとげる心」「正直な心」「たすけあう心」など 、いろんな“心”をテーマに書きました。もちろん、視点を変えるとテーマ以外にもいろいろな心に気づくことができます。
それぞれの作品はこれから毎月1冊ずつ刊行されることになっています。
───どれも、子どもにこんな“心”が育ったらいいなあと思うテーマですね。
そうです。でも、まちがえてほしくないのは、子どもに「こういう心をもちなさい」と一方的に教育するための絵本ではないということ。それに、いろいろな“心”をはぐくむ必要があるのは、子どもだけじゃない、大人だってそうですもんね。
12のテーマと12の絵本は、主体的に考えようとする子どもの心に寄り添うと同時に、大人にもさまざまな気づきを与える絵本となってくれたら……と思っています。
───たとえば2巻目の「思いやる心」がテーマの絵本は、どのようなお話なのですか?
『うれしいやくそく』というお話です。キツネの男の子は、遠足をとても楽しみにしていました。でも足をけがして遠足に行けなくなってしまいます。いまごろみんなが楽しく過ごしているかと思うと、さびしくてたまりません。そのころ、おともだちはどうしていたかというと……。
ともだちどうしの、すなおな思いやりの気持ちをこめた作品です。いしいつとむさんが、やさしくにじむようなタッチで、素敵な絵を描いてくださっています。
───原画を見せていただきました! わぁ……、あたたかさが伝わってくる絵ですね。
3巻目は『たなからぼたもち』。江戸で評判の和菓子屋さんのあととり息子、あまたろうは、のんびりやのなまけもの。とうとう父親に「このさき、どうやってくらしていくつもりだい?」と叱られてしまいますが……。
このお話は「楽しく働く心」がテーマ。本作が絵本3作目という澤野秋文さんが、江戸の風景をじつに細かいところまで生き生きと描いてくださっています。ていねいな仕事をするよろこびや、誇りが伝わってきますよ。
4巻目の『みずやりとうばん』は、あおきひろえさんの絵で、「責任をもってやりとげる心」がテーマ。学校で育てている野菜畑の水やり当番を、なつみちゃんは忘れて帰ってきてしまいます。学校にもどろうか、一日くらい大丈夫かな、と迷います。
5巻目の『しょうじき50円ぶん』は、長野ヒデ子さんの絵。おにいちゃんとたこ焼きを買って帰ってみると、おつりが50円多い。正直にいってたこ焼きやのおじさんに返す? それともだまってもらっておこうか……。
『みずやりとうばん』も『しょうじき50円ぶん』も、「どうしようかな」と揺れ動く子どもたちの気持ちを描いています。
───「一日くらい水やりしなくてもいいんじゃないか」「おつりの50円、だまってもらっておこうか」「でも……」
子どもは「こんなことを考える自分はダメなんじゃないか」「だからないしょにしておこう」と、すぐ心にとじこめてしまうかも……。
そうなんよなあ。でも、こういうときにいろいろ考えてしまうというのは誰にでも経験があるものね(笑)。
どちらの作品にも葛藤があるんですが、『みずやりとうばん』でいえば、思いなやんで、行動して、最後に「すっきりした」という気持ちがもてたら、もうそれでいいわけなんよなあ……。
この本を、ともだちや先生といっしょに読んで、「わたしもこんなふうに思ったことあるわ」とか、先生が「先生も小さいとき、こうだったなあ」と話してくれたら、子どもがどれだけほっとするか。読んだ子がまず、「あっ、わたしだけじゃないんだな」と気がついてくれたらいいですよね。