妄想、空想で満ち満ちている男子の頭の中を「帰り道」という日常に合わせてリアルに描いた『アブナイかえりみち』(ほるぷ出版)の続編が、とうとう完成しました! 男子たちの「待ってました!」の声が聞こえてきそうな「男子臭」漂う、モーソウおバカ男子絵本。「男子のことが知りたい!」「 男子ってなんなの?」と日頃、頭を悩ませているママさんたちを救うかもしれない1冊です。作者の山本孝さんに、絵本の魅力と男子の頭の中を語っていただきました!
- アブナイおふろやさん
- 作:山本 孝
- 出版社:ほるぷ出版
おふろやさんがジャングルに?!ぼくたち「ほうかごスペシャル探検隊」は幻の魚人イセン・セババの姿を追う!男子のモウソウはとまらない。ハチャメチャで、アツイ!楽しい「男子絵本」。
───『アブナイおふろやさん』、早速、息子と一緒に読ませていただきました。1作目同様、息子は絵本の世界にどっぷり入り込んで、楽しんでいました。
それはすごく嬉しいです。やっぱり、男子たるもの、お風呂場は妄想を広げやすい場所だと思っているので。
───今日は1作目の『アブナイかえりみち』のおはなしも伺いながら、絵本からあふれている「男子臭」についても伺えればと思います。まずこの2作に登場する「ほうかごスペシャルたんけんたい」ですが、これにはモデルがあるそうで…。
───今でも、時々テレビの特番などで、未確認生物や危険動物を探す番組をやっていますが、男の子は怪奇現象とか冒険が大好きですよね。
そうなんですよ。でも、ぼくたちが子どもの頃に目を輝かせてハマった探検隊が、今の子どもたちにも楽しんでもらえるのか…、絵本を描くまでは全く分かりませんでした。そこを確かめたいと思って、実験的にスタートしたのが、1作目の『アブナイかえりみち』なんです。
───出版してみて、子どもたちの反応はいかがでしたか?
やっぱり、今の子もいろいろ妄想しているんだ! と、安心しました。男子たるもの、「登りたい! 飛び降りたい! 入りたい!」は基本なんですよ。好奇心が先に立つので、危ない場所とか考えず、とにかく入っていく。そこで痛い目に合って、身を持って体験するのが男子かな…と思います(笑)。
───そうすると、この絵本は山本さんの子どもの頃の体験がベースになっているんですか?
この絵本に限らず、ぼくの作品は「おバカ男子」を描いてみたいという気持ちがベースにあります。それと、『ちゃんがら町』(岩崎書店)や『むしプロ』(教育画劇)を描いたとき、お父さん方から「会社帰りに買って、息子と一緒に読みました」という感想を頂いたんです。そこから、子どもに絵本を読みたいお父さんは多いけれど、お父さんが心底面白がって読めるような絵本って少ないのかも…と思いました。絵本を読んだ後に、「お父さんも子どもの頃はこんなことをしてね…」と子どもとはなしが広がるようなアイテムとして使える絵本があると良いと思い、「男子絵本」を作ろうと決めました。
───たしかに、山本さんの作品は男子の心情というか、行動がすごく表現されていますよね。お母さん目線で見ると、「どうして男の子ってこういうことするの?」と疑問に思っていたことを解消してくれる部分も多くあると思います。1作目の『アブナイかえりみち』はどのような経緯で制作がスタートしたのですか?
2009年に東京のギャラリーで「子どものころ」をテーマに個展を行ったんです。その絵を見たほるぷ出版の編集者・中村さんが「子どもたちの妄想をつないで1冊の絵本にしませんか?」と言ってくれてスタートしました。放課後のはなしにすることはすぐに決まったのですが、それから川口浩探検隊の様なメンバーを登場させることになり、人数は5人にしようとストーリーがどんどん膨らんできました。
ほるぷ出版編集・中村:1人や2人だと妄想が内側に入っていくんですが、5人いると妄想がどんどん広がっていくんですよ。あと、お互いを「●号」として呼ぶことも決めましたね。「1ご〜〜〜〜う!」とか大声で叫ぶと、それだけで気分が盛り上がりますから(笑)。
───かなり熱いやり取りが繰り広げられていたんですね…。絵本が完成するまでには、どんなステップを踏むのでしょうか?
制作の過程を少しお見せすると…。
───こ、細かい…!!貴重なスケッチなど見ることができて、感動です。 描いているときに一番盛り上がるのはどの段階ですか?
一番好きなのは、喫茶店とか新幹線の中とかで、アイディアをどんどん出しているときですね。ひらめいたものを込めていって、「これおもしろいぞ!」と思って描いているのが一番好きな状態で、そこから絵本にまとめる作業が一番しんどいです…。
───山本さんの絵ってくせになるというか、「コロボックル」シリーズの村上勉さんのように、絵を見るとすぐに作品の中に入っていける、そんな山本孝さんの世界を作っていると感じています。
そう言ってもらえるのはすごく嬉しいですね。ぼく自身は、自分のことを余白恐怖症だと思っているんです。元々描きこまれている絵が好きだったこともありますが、隅々まで描かないとなんか不安で…(笑)。それに、子どもは細かいところまで見てくれるじゃないですか。僕と同じように絵の中で楽しみたいと思ってくれるなら、描きこんでおきたいですね。
───でも、実際にこの細かさを描くのは、とても大変な作業だと思います。
たしかに、シンドイ…。でも、出来上がったときは楽しいんで。トレースして色をつける作業は、難関なぬり絵をやっている感じです。
───絵本の中では、男子の妄想の中に現実が絶妙に差し込まれていますよね。これも最初の段階から考えていたのですか?
ずっと妄想の世界を描き続けてしまうと、現実の世界を妄想しているという、男子のおバカ加減が読者に伝わらないかもしれない…と思って、要所、要所で、現実の様子が見えるように工夫しました。
───『アブナイかえりみち』では、文章の言い回しもかなり独特だと思ったのですが。
「あらたな ぼうけんの はじまりである」とか「きけんに みちているのだ!」とか、今の子は言わないですよね。口調は、川口浩探検隊を参考にしたのですが、子どもたちが意味を理解してくれるか悩みました。
───聞いたことがなくても、口に出して読んでみると自然と探検隊の雰囲気が出てきて、子どもも入りやすいように思いました。
───言葉といえば、「チンダ・ダラハ」とか、「チマンホいちば」とか、名称もかなり個性的ですよね。
これは逆さ言葉なので、文字が読める子は「原田団地」「本町市場」だと気づいて、ニヤッとしてもらえたら嬉しい。名称には特定の場所があるわけではなく、聞いたときに格好いい響き、ちょっと中南米奥地の秘境っぽい言葉を選びました。