「ルマニオ ルマニオ……」と呪文を唱えると、どんなものにも姿を変える魔法の杖が友達のひとりぼっちの魔女、ルマニオさんが主人公の絵本『まじょのルマニオさん』。作者の谷口智則さんは、フランスの出版社で数多くの絵本を発表している絵本作家さんです。日本では『100にんのサンタクロース』(文溪堂)で、今までにない多彩なサンタの姿を描き注目を集めた谷口さん。個性的な作風のルーツは日本画だった? 地元に100人のサンタクロース出現計画がある?…など、気になる話題から、ハロウィーンシーズンにもオススメのオシャレで孤独な魔女の絵本についておはなしを伺いました。
- まじょのルマニオさん
- 作:谷口 智則
- 出版社:文溪堂
のぞめばなんでも手に入る魔法の杖とくらしていたまじょのルマニオさん。ある日、傷ついたことりを見つけ、魔法を使ってなおそうとしますが、なぜかうまくいきません。自ら一生懸命看病するうち、ルマニオさんの心にある変化がおきはじめます。 『100にんのサンタクロース』 『サルくんとバナナのゆうえんち』でおなじみの大人気作家、谷口智則氏の最新刊。出会いと仲間を大切にしたくなる絵本です。
●魔女と小鳥と杖、三者三様の優しさを感じる『まじょのルマニオさん』。
───ルマニオさんは魔女という設定だけでなく、ビジュアルもとっても個性的で、一度見たら忘れられないキャラクターですよね。
実は、ルマニオさんのおはなしの骨格は、7年くらい前にすでに完成していたんです。ルマニオさん自身はぼくが小学生のときに考えた魔女のビジュアルをそのまま使いました。
───小学生のときにルマニオさんの見た目ができていたなんてすごいですね。どうしてこういうビジュアルになったのですか?
特に理由があったわけではなく、ぼくの中の魔女のイメージが月のような顔に真っ赤な爪と靴の魔女だったんです。こういうキャラクターのビジュアルは考えるというよりも頭の中に降ってくるという感じで……。それをノートの端なんかに描いていて、あるときふと見つけて、これでおはなしができないかなと考えて、絵本を作っていくんです。

───なるほど! おはなし自体は7年前にはできていたということですが、その頃からすでに、呪文を唱えると杖がいろいろ変っていくストーリーだったのですか?
はい。ルマニオさんのキャラクターが浮かんだときに、杖が魔法で笛やほうきになる設定も生まれました。でもそこからラストに向けてストーリーが浮かんでこなくて……、物語が出てくるまでずっと寝かしていました。
───では、怪我をした小鳥がやってくる部分は、新たに生み出されたストーリーなんですね。どういうきっかけで、このストーリーになったんですか?
魔法がなくても大事に思う人ができればいいということを伝えたいと思っていたので、外の世界から誰かがやってくる必要がありました。杖が最後に形を変える設定もはじめから決まっていたので、その変わったものから考えると、自然と鳥がうかんできて、ルマニオさんの元に小鳥がやってくるおはなしが生まれました。
───小鳥を助けるために魔法で薬やスープを作ろうとしますが、なぜか失敗してしまいますよね、今まで成功していたのに、そこがとてもふしぎでした。
それは、杖にも感情があるからなんです。

───杖に感情、ですか?
はい。ぼくのなかでは、ルマニオさんの魔法が使えなくなったのは、あわてていたとか、呪文が間違っていたのではなく、杖がルマニオさんのことを思って、あえて魔法を発動しなかったんです。ルマニオさんに友達ができるよう、身を挺して後押ししてくれているんです。
───そんな設定があったなんて……。すごく健気な杖ですね。
杖のそういう設定はあくまで自分のなかで考えているものなので、おはなしの中には深く組み込まないようにしています。なので、何回も読んでいるうちに「もしかしたら……」と思ってくれるくらいがちょうどいいかな。
───何回読んでも楽しめるのが、絵本の魅力のひとつですよね。谷口さん自身も、絵本は何回も読み込むタイプですか?
そうですね。ぼくが好きな絵本の多くが、読むたびに新しい発見がある絵本なので、特に好きな『かいじゅうたちのいるところ』(作: モーリス・センダック 訳: じんぐう てるお 出版社: 冨山房)は何度読んだか分からないくらい読みかえしました。最近は子どもたちにも読み聞かせをしています。
───お父さんが読んでくれる『かいじゅうたちのいるところ』は特に迫力がありそうですね。谷口さんの絵本もお子さんに読んであげるんですか?
もちろん。4歳の長男と11か月の長女がいるんですが、長男は『まじょのルマニオさん』の呪文が大好き。昨日も歯を磨くとき、歯磨き粉が出なくなっていたので、振りながら呪文を唱えたら出るようになるよって教えたら、「ルマニオ ルマニオ デーロ、デーロ!」って呪文をいっていました。
───それはかわいいですね! お子さんに読み聞かせをする中で、絵本に対する変化などは感じますか?
うーん……。声に出して読むことで分かることがあるんだということを知りました。『かいじゅうたちのいるところ』もひとりで黙読するよりも、子どもに読んでいるときの方が繰り返しの楽しさなんかも感じられて、よりおもしろく感じましたね。そういう子どもと接して気づいたことは、絵本の中にも生かすようにしています。