●図鑑を見て、動物の中に入っていってほしい。
───山極先生は、ゴリラの研究の第一人者として、多くの書籍を執筆されていますが、監修者として『MOVE 動物新訂版』では、どのように関わられているのでしょうか?
動物の研究の世界は、日々新しい研究が発表され、情報が更新されていきます。前回の『動く図鑑MOVE 動物』では最新情報だったことも、5年たつと古い情報になってしまいます。古くなってしまった情報を新しい情報に修正することと、最新情報が掲載されているかチェックする作業を監修では行いました。
───5年間でどんどん新しい情報が出てくるなんて、ビックリです。今回、特にどんなところが新しい情報として追加されたのでしょうか?

一番大きく変わっている部分は、ほ乳類のなかま分けをしている「系統樹」の部分。今回、新たに「オマキザル科」の分類が「オマキザル科」「クモザル科」「サキ科」に分かれました。また、「モグラ目」が「トガリネズミ目」と「ハリネズミ目」になるなど、研究によって変更された部分を掲載しました。
───図鑑の中では最新の25の「目(もく)」に分けて、ほ乳類が紹介されていますが、「Dr.ヤマギワのポイント!」を読むと、それぞれの「目」の特徴がとても分かりやすかったです。山極先生は『MOVE 動物新訂版』のどんなところを注目されていますか?

私が特に素晴らしいと感じたのは、掲載されている写真の迫力です。どの写真も世界中の一流動物写真家が、ここぞというシーンを撮ったものばかりで、こういう写真を見ることで、本物の動物を見てみたい、自分はもっと違うシーンを見てみたいとモチベーションが上がると思いました。それでも、これほどの瞬間は肉眼ではなかなか見ることができませんからね。しかも、ただ姿や形態がアーカイブ的に掲載されている従来の図鑑にはない、ほ乳類の行動や生態を見せてくれている写真の数々と情報量。それが1冊にまとまっているなんて、本当にすごい事だと感激しました。
───本当に、ページをめくっていくと、ハッと目を見張るようなインパクトある写真がたくさん載っていて、見ているだけで、ワクワクします。

それと、それぞれのページに人間の大きさ(170�p)と掲載されている動物の大きさを比べる「大きさチェック」が載っていることも、図鑑の要素として重要な部分だと思います。一般的に、図鑑は動物の特徴が一番分かりやすい大きさで掲載されています。もちろん、大きさは数字で示されているけれど、子どもたちは、数字から実際の動物の大きさをイメージすることは難しいですよね。「大きさチェック」があることで、視覚から動物の大きさを捉えることがしやすくなっていると思います。
───たしかに、「大きさチェック」を見ると、想像していたより大きい動物がいたりして、それだけでも、発見がありますね。
人間は、視覚、聴覚、嗅覚、触覚など、感覚を使って相手を認識しますが、目で観察することが、最も詳しく真実を知ることにつながります。私は長年、動物の行動を研究してきましたが、その中でずっと言われてきたことは「動物の目で見て、感覚で感じて、世界を眺める」ということでした。

───「動物の目と感覚で世界を感じる」ですか?
つまり、ゴリラを観察するとき、人間の側から見るのではなく、自分がゴリラの中に入るんです。ゴリラの目で見たら森はどんな風に見えるのか、ゴリラの耳で聞いたら、風はどんな音を立てるのか、想像を膨らますことができます。そうすると、図鑑を見て感じた「ゾウはどうしてこんなに長い鼻を持っているんだろう?」「アリクイはなんで、こんなにとがった爪を持っているんだろう?」という疑問も解消されてくるのです。
───動物図鑑を見るとき、「動物になってみる」というのは、とても斬新な発想ですね。例えばアリクイになってみて、「お腹が空いたなぁ。大好物のシロアリを食べたい。でも、アリ塚は固いから普通の手足では、アリを食べることができないなぁ……」と考えるんですね。
そうです。じゃあ、アリ塚を壊すための鋭いかぎ爪と、アリを食べるための長い舌が必要だな……と思えるんです。
───そうやって図鑑を見ながら、想像力を膨らませていくのはとても面白いです。
子どもというのは、ものすごく想像力豊かな能力を持っています。なので、常日頃から自分の身体をいろんな物に変えているんです。我々大人も子どもの頃、アリの行列をジーっと眺めて、アリになったつもりで荷物を運んでいたことがあったと思います。それはとってもワクワクする瞬間でした。そういう疑似体験ができる窓口として、図鑑が役割を担っても良いのではないか……と考えていたときに、今回の監修の話を頂きました。
───山極先生が特に子どもたちにオススメしたい、面白い行動を取るほ乳類を教えていただけますか?

驚きがあるという点では、モグラでしょうか……。モグラの穴ってただの通路だと思っている人が多いですよね。でも、あれはネズミを捕まえるための罠でもあるんです。さらに、穴の先にはトイレもあって、寝床もある。とても有能な建築家だと思いましたね。それと、快適な住まいを持っているビーバーになってみるのもオススメです。彼らの巣は、外側から眺めるだけでは分からない驚きの仕組みによって建築されています。安全なだけでなく、湿度と温度が快適に保たれていて、外敵からも守られている。そんな家に住む気分を想像するだけでも楽しいと思います。
───そういった動物の行動をより詳しく知るためにDVDが付いているのも「MOVE」の特徴のひとつ。今回は前回からさらに収録されている動物が増え、70種類以上! 何と111分という付録とは思えないボリュームですよね。

このDVDは本当にすごいですよ。図鑑はその性質上しょうがないことですが、分類の単位であるひとつの「目(もく)」がまとまって載っています。でも、自然界では動物が単独でいることや、ひとつの「目」だけがまとまって存在していることはありえません。動物の周りには、昆虫がいて、植物がいて、ほかの動物たちもたくさんいる。そういう図鑑ではなかなか見ることのできない動物の暮らしている様子が、DVDで見事に補てんされていると思いました。
───「日本の里山にすむ動物」のページでは、いろいろな動物の姿がイラストで紹介されていて、分かりやすいと思いました。

自然界では、図鑑のように同じ「目」の動物が固まっていることは少なく、このページのように同じ場所に、違う「目」の生き物が共存し、複雑な動物同士の関係、食物連鎖、動物と植物の関係が入り混じって存在します。こういう自然界の姿を表現したイラストを見ることで、動物が自然の中でどのように暮らしているかがイメージでき、とても良いと思います。
───そのほか、『動く図鑑MOVE 動物新訂版』でオススメなところを教えてください。
意外なところでは、ページの脚注に載っている「Q&A」がオススメです。シロサイのページには、名前の由来は「Wide(広い)」と「White(白い)」を聞き間違えたから「シロサイ」になったと載っていますが、聞き間違えで名前がついた動物って結構多いんですよ。こういうミニ知識が身につくので、隅々まで読んで楽しんでもらえるといいですね。
●子どもの頃は図鑑少年でした
───山極先生は子どもの頃から動物が好きだったんですか?
そうですね、小さい頃から動物は好きで、イヌやネコなどいろんな動物を飼っていました。家が東京の国立にあって、周りが森や林など自然が多かったから、よく図鑑を手に、昆虫や動物を見つけに行きましたよ。当時の図鑑は絵がメインだったから、図鑑に描いてある動物の姿を見たいと、躍起になって探したものです。
───『動く図鑑MOVE 動物 新訂版』の中の写真もそうですが、図鑑に載っている動物の姿はすごく特別な瞬間を切り取ったものが多いので、日常の中で見つけるのは大変ではありませんでしたか?
まさしくその通りで、自然界ではなかなか同じ姿は見られないんですよ。でも、それがいけないことではなく、ぼくが見た動物との出会いは、1回限りの特別なものと思えば良いんです。

───動物好き、図鑑好きな少年だった山極さんが、ゴリラを研究しようと思ったきっかけはなんだったのですか?
元々、冒険志向が強かったんです。「誰も見たことのないものを見たい、行ったことのないところに行きたい」。どうせなら誰かから教えてもらうんじゃなくて、自分で発見していきたいじゃないですか。だからゴリラについて自分で確かめたいと思って、研究者になりました。
───当時はゴリラが一番未知の動物だったのですか?
もちろん、ゴリラに関する研究があまり進んでいなかったこともありますが、ゴリラの研究に至る前に「人間を知りたい」という思いがありました。ゴリラは人間に近い動物です。人間の過去、起源はまだ解明されていないので、ゴリラと比べながら研究を進めていくことで、人間の古い姿を想像したいと思ったんです。人間に近いといわれているサル目の動物はゴリラ以外にもチンパンジーやオラウータンなどがいます。その中でもゴリラを研究しようと思った理由はいろいろありますが、動物園で見たとき、ゴリラがとても悠然としていて、人間が超えられない何かを見ている高尚な存在に見えたんです。
───図鑑好きな少年から、ゴリラの研究者に、そして今は京都大学の総長として活躍されている山極さん。教育者の立場から『動く図鑑MOVE 動物 新訂版』を楽しむ子どもたちへメッセージをお願いします。
先ほど動物の中に入る入り口として、図鑑の楽しみ方を紹介しましたが、図鑑はひとつの入口だと私は思っています。図鑑を見ることで動物について興味を持ってもらい、見たこともない動物の姿をDVDや写真で見て、動物をもっと好きになってもらいたい。そうしたら次は、山へ行ったり、動物園や水族館へ行ったり、思い切ってアフリカに行っても良い(笑)。とにかく本物を見てほしいと思います。実際に動物のいる空間を見ることで、見るだけでは感じることのできなかった臭いや音、暮らしている自然の植物や昆虫の触覚など、さらに感じることができる。そうやって五感で感じてからまた図鑑に戻ると、新たな視点で図鑑の中の動物を見ることができると思います。そういう1冊の図鑑を何度も楽しむ工夫をしてもらいたいですね。
───図鑑を見る新たな楽しみ方を教えていただきました。今日は本当に、ありがとうございました。
最後に、編集者・森定泉さん、成清さんへの編集者としての思いを伺いました。








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