谷川俊太郎さんの自選詩集『そして』(銀の鈴社)は、1980年に出版された選詩集『地球へのピクニック』以降に出版された谷川さんの詩集から、一冊に一篇ずつ選んでまとめられた作品です。シンプルでありながらグッと目を引く表紙や詩に添えられている絵を描かれたのは、イラストレーターの下田昌克さん。今回、谷川さんのアトリエにお邪魔して、お二人に作品が生まれた経緯、どのようなやり取りで詩と絵が決まっていったのかなど、制作秘話を伺いました。お二人の軽快なやり取りにもぜひご注目ください。
●革命的な表紙? 自選詩集『そして』ができるまで。
───できあがったばかりの詩集を見せていただきましたが、表紙のデザインがとても格好良いですね。
下田:まさかの箔押し(※)です。
※箔押し……熱と圧力によって、金・銀・色箔の文字や絵柄を入れる特殊な印刷加工。
谷川:玄人好みだよね。読者は気づかないんじゃないかなぁ。
下田:え……そうですか? 結構、思い切ったつもりなんですけどね。
谷川:今の出版界を考えると、すごく革命的な表紙ですよ。みんなド派手なことをしようとするじゃないですか。その中で、これはほんと革命的。
下田:意図せず革命家(笑)。
谷川:触らないと分からないけどね。
下田:……。
谷川:あ、こういうしゃべりが面白いからね。録っておかないと。
───もう録音しています(笑)。今のやり取りからもお二人の仲の良さを感じました。『そして』は、谷川さんが1980年以降に発表された詩集の中から、一冊一篇ずつ選んでまとめた「自選詩集」。とても珍しいタイプの詩集だと思いました。
谷川:「一冊一篇ずつ」っていうのが珍しいですね。以前、ジュニア・ポエム双書で出版した『地球へのピクニック』から30年以上経っていて、その間にもいっぱい詩集を出してきました。その中から選んでいくと、一冊一篇くらいしか選べなかったんです。
───一冊一冊にたくさんの詩が収められていると思うのですが、そこから一篇を選ぶのは大変ではなかったですか?
谷川:まあ、自分の作品ですからね。これを入れたいとかいうのはなくて、「読者がこの詩を読んだときにどう思うか」というのを基準に選びました。それと、ジュニアポエムだから、最初はひらがなの短い詩から入っていって、だんだん長い詩になるようにと、編集者から提案されて、そこは意識しましたね。
───カタカナだけで書かれている詩があって、面白いなと思いました。
谷川:「ミライノコドモ」ですね。詩の内容もジュニアポエムに合っているなと思って選びました。ぼくの詩の中で、カタカナだけで書いたものは割と珍しいのでね。
───詩の順番は、詩集が発売された順番になっているのですか?
谷川:いいえ。年代順にはしていないと思います。先ほども言ったように、入り口は、はじめて詩に接する子どもにもわかるように短い作品にして、少しずつ、長くて、読み応えのあるものをまとめました。
下田:今の時代や子ども達の身の回りの変化なども作品選びに関わってきますか?
谷川:もちろんありますよ。ただ、どういう基準だったか言葉にするのはとても難しくて。皮膚感覚というか、全体的な感覚ですよね。
───下田さんは、どの段階で今回の詩集をご覧になったのですか?
下田:ぼくに依頼が来たときは、詩を選び終えていて、順番もだいたい決まっていました。
───最初にこの詩集を読んだときはどう思いましたか?
下田:全部バラバラだなと思いました。だから、ぼくが一本の線でつなげちゃおうかなって考えたんです。
谷川:生意気じゃん! (一同笑)
下田:「いいアイディアだ!」と思ってはじめてみたのは良いけれど、途中で、本の全ページに絵を描かなきゃいけないことに気づいて「大変だ!」と慌てました。