●五味太郎の全貌が一冊で分かると、感動!
───『五味太郎絵本図録』の完成、おめでとうございます! 1973年のデビューからほぼすべての著作を網羅している、とても記念碑的な図録だと思いました。実際にできあがりを見て、いかがですか?
あとがきにも書いたけれど、デジタルデザイナーのももはらるみこさん、ライターの内海陽子さん、編集の廣瀬歩さんなど、優秀なスタッフがこの図録をまとめてくれました。これ実感ね。これまでの五味太郎の仕事の全貌が、1冊で分かると五味太郎が感動したので、多分これは良い本です(笑)。
───まず、お聞きしたいのが「エポックメーキング50」について。350作近い著作の中から、50冊を選ばれていて、とても読み応えがありました。
ぼくはこれに関しては、ほとんど何もやっていなくて、ライターの内海陽子さんが、「この本はどのように?」って取材してくれて、それをまとめてくれました。本になって、「エポックメーキング50」のコメントを改めて読んでみたら、すごく良いね(笑)。今まで特に意識することはなかったけれど、改めて50冊を選ぶとなると、確かにエポックメーキングってあるなって思って。つまり、絵本って発明品なんだよね。ぼくは、1冊の絵本を描くとき、今まで見たこともなくて、味わったことのない感覚を感じたら、この作品は成り立つなと思っているんだよ。その発明を様々なバリエーションとして見せてくのがぼくの絵本の作り方なんじゃないだろうか……って。
───1冊の中で新たなことを発見していく作業が五味さんにとっての絵本制作なんですね。
自分ではあまり気づいていないんだけど、かの名作『きんぎょがにげた』があるじゃない。あれは、ストーリー性はなく「流れていく風景のようなもの」を羅列的に描いている、ぼくの好みのパターン。それはのちに出版した『かぶさんとんだ』にもつながっていくんだけど。こういうパターンをぼくは発見したんだろうね。ただ、この「エポックメーキング50」でいろいろ作品を分析して振り返っていったことで、ぼくの作品にはあんまりバリエーションがないねという結論に達してしまった……(苦笑)。
『かぶさんとんだ』
───そんなことないですよ! キャラクターが変わるだけでも、五味さんの作品の雰囲気はかなり変わると思います。
廣瀬さんや内海さん、それにtupera tuperaなんかに言わせると、ぼくの絵本作りは周りとちょっと違うみたい。何が違うのかというと、文章に絵を付けているわけではないということなんだよね。ぼくが絵本を描きはじめたころ、絵本はまず文章があって、その文章を絵解きする意味で絵がつけられていたんだよ。でも、ぼくは絵を描くのが好きだったから、文字と絵、どちらが先かというと、やっぱり絵なんじゃないかと思うんだよね。
───五味さんがやりたいと思っていた絵本作りは、当時はかなり異質だったんですね。
今考えるとぞっとするんだけど、ほんの40年前、絵本や児童書の世界は本当にわざとらしい世界だったんだよ。
───わざとらしい世界ですか?
教育や世の中のルールやマナーなど、常識的な知識を子どもたちに伝えるために絵本や児童書に関わっている大人たちがたくさんいた。子どもが良い子になるように本気で考えて、それをまとめるのが絵本の本質だと信じて疑わなかった時代だったわけ。でも、ぼくはそういうのに興味がなかった。そもそも、時代とかそのときの子ども感とかを絵本に組み込もうなんて思ったことがなかったからね。だから、児童図書や児童文学とかの専門雑誌にボロボロに叩かれた。おれ、不良だったわけ(笑)。でも、40年経って、当時、主流だった子ども感や子ども論がなりを潜めてきているよね。それよりももっと本質的に、面白いものを作ろうという若い奴らが増えてきた。だから今、おれは亀山(tupera tupera)に言っているの、「おまえたちがやりやすいように道を作っていったのは、おれなんだから、感謝して、何かおごれ」って(笑)。
───出版当時、五味さんの作品が子どもの本のいろいろなジャンルから批判を浴びたなんて、とてもふしぎです。それでも、絵本を作り続けてきたのはなぜですか?
出した絵本が受け入れられなかったら、ほかにも楽しいことがいっぱいあるからって思っていたかもしれないね。でも、売れちゃったんだよね(笑)。ああ、おれと同じように考えて絵本を楽しんでいる人もこんなにいるんだって嬉しくなった。それが分かったら、むりに趣味の合わない人を説得しようなんて思わず、趣味が合うか、波動が合うか、そういう人間と付き合えばいいんだよ。
───「五味太郎を語る」に登場する人たちは、五味さんと趣味や波動が合って、長年交流している方たちなのでしょうか。
そうだね。装幀家の小野明さんとは、絵本のことについて対談して、本を2冊出しているし(※)、有川裕俊さんは、絵本館の代表としてぼくの絵本を何冊も出している。それと、京都日本語教育センター 代表理事の西原先生。彼女は80歳を過ぎてもこんなに可憐なおばあさんいるんだなって思うくらい、すごい人なんだよ。その人が外国人に日本語を教える授業で、ずいぶん長いことぼくの絵本を使ってくれていて、お友達というより先輩なんだけど、久しぶりに会う機会があったから「文章を書いて」ってお願いをしたの。
※『絵本を読んでみる』『絵本を読み続けてみる』(平凡社)
五味さんと縁の深い方々による寄稿。
───五味さんにお願いしたら、きっと皆さん喜んで寄稿してくださるでしょうね。
こっちは、大変だよ。お願いしないと「なんで声がかからなかったのか」って怒るやつもいっぱいいるし(笑)。
───そうなんですね(笑)。「27人のメッセージ+Q&A」では、絵本作家さんや絵本関係者の方以外にも、俵万智さんや吉本ばななさん、南伸坊さんなど著名人の方が五味さんへのメッセージとともに質問をされています。いろいろな質問があってとても楽しかったです。
この企画は編集者が考えたの。Q&Aを持ってくる感覚は、ぼくにはなかったから、斬新だったね。質問に答えるのは早いよ。会話だったらこう来たらこう返そうって思うけれど、これはライブじゃないから、なんて答えてやろうかなって。でも、ときどき変な質問をするやつもいて、「初恋はどんな方でしたか?」とか、「麻雀の『ひっかけ』という技法について、どのようなご意見をおもちでしょうか」とか……そんなこと聞くんじゃないって(笑)。あべ弘士なんかは、よく知っているから、つまらないことしか言わないなって(笑)。
───「五味版『百人一首』がでましたね。いちど実践で、お手合わせを……」とのことですが。
最近知ったんだよ、あべが百人一首強いってことを。でも、話を聞いてビックリしたのは、北海道では上の句しか読まないんだって、百人一首。「それはただのカルタだろう!」って思ったんだけど、絶対に実践ではやらないよって(笑)。
───お二人の仲の良い様子が、伝わってきますね。