●自分のアイデンティティを守るために捨てられないものが誰にでもあると思います。
───『あかにんじゃ』にはじまって穂村さんの絵本との出会いまでたっぷりお話を伺いました。最後に絵本ナビユーザーへメッセージをお願いします。
『あかにんじゃ』は、よく見るといろいろな秘密が隠されていますので、ぜひ、そういう部分を見つけてほしいなと思います。ぼくも今日、改めて読み返してみて、気づいたことがいくつもありますから、何度も読むことで新しい発見が出てくると思います。
───何度も読んでいる内に、身の回りにある赤いものも「もしかしたらあかにんじゃかも……」と思ってしまうかもしれないですね。
そうなったら面白いですね。この絵本は繰り返していくことで、どんどん状況がエスカレートしていくという絵本の基本パターンを自分なりに書いてみたかったというのがきっかけなんです。「あかにんじゃ」が「ドロンドローン」とカラスになり、チョウチョになり、おじさんになり……これだけ、自由自在に変身できるのに、赤い色だけは変えられない……というのがポイントでもあります。
───たしかに、「最初に黒くなればいいのに」って思いますよね(笑)。
でも、色だけは変えられないんです。変えてしまうと、自分のアイデンティティが失われてしまうから。そういう部分が人間誰しもあると思います。そのアイデンティティを否定せず、歓迎されて価値を持つような世界を見つけないといけない。それが、ラストの夕焼けにつながっていく。そんなおはなしなんです。
───すごく壮大なラストに感じられます。しんみりしそうな場面なのになぜかクスッと可笑しくなるのも、この作品の魅力ですね。今日は本当にありがとうございました。
<おまけ> 『まばたき』の制作秘話も伺いました!
穂村弘さんと酒井駒子さんのタッグで話題になった絵本『まばたき』。チョウチョがとまっていた花から、飛び立つ。時計が12時をさし、ハトが出てくる……。ページをめくっても同じ絵が出てくる構造に、戸惑いを覚えた方もいるのではないでしょうか? 実はこの絵はまったく同じ絵ではなく、構図の同じ絵を画家さんが2枚描いているのだそうです。
実はこの絵は、同じ構図を2枚、画家さんが描いているというのです。よく見ると、たしかに、タッチなどに変化があり「違う」絵だということは分かります。この提案を穂村さんから受けたとき、酒井さんはすぐに作品のコンセプトを理解されて、「難しいですね」と仰ったそうです。
穂村さんはこの作品のコンセプトについて「絵と絵の間に流れる時間は数秒かもしれないし、一億年かもしれない。チョウチョも違うチョウチョかもしれません。「まばたき」という言葉から、“一瞬”をイメージしがちですが、果てしない時間が流れているとも感じられる。その衝撃を自分自身も味わいたくて作りました」と教えてくれました。
取材/木村春子
撮影/所靖子