「もしも、昔話に出てくる登場人物が、一人称で物語を語ったら……」。そんな新しい発想から生まれた「1人称童話」シリーズ(高陵社書店)。シリーズ1作目を飾るのは、犬、サル、キジを伴い、鬼ヶ島に向かった『桃太郎』です。「ぼくは鬼がこわいと思いました。」という衝撃発言も飛び出す、本作。企画と文章を担当したクゲユウジさん、絵を担当した岡村優太さん、そして、デザイナーの市川千恵さんにお話を伺いました。
●主人公の気持ちになれる、「1人称童話」シリーズがスタートしました。
───昔話を主人公の視点から描いた「1人称童話」シリーズ、刊行おめでとうございます。とても斬新な切り口だと思ったのですが、どのようなきっかけでこのシリーズは誕生したのでしょうか?
クゲ:「1人称童話」シリーズの構想はかなり以前から、ぼくのなかで温めていました。それを、高陵社書店の高田社長に持ち込んだのは2016年の夏ぐらいだったと思います。ぼくとデザイナーの市川さんは、以前、『おのまとぺの本』で、高陵社書店の高田社長と一緒に仕事をしました。そのご縁から、新しい企画として「1人称童話」の構想をお話したところ、とても興味を持っていただき、シリーズとして企画をスタートさせることになりました。
文章を担当したクゲユウジさん。
───かなり以前から、「1人称童話」シリーズの構想をお持ちだったとのことですが、発想のきっかけはなんだったのでしょうか?
クゲ:小説にしろ映像やゲームにしろ、視点の違いで味わいが変わるんですよね。元々、童話や昔話が「ナレーション形式」で決まって語られることを、なんとなく不思議に思っていました。ご両親が枕元でお話するためだと思うのですが、絵本の場合は、子供が両手に本を持って読む場合もあります。小説や映像と同様に、一人称で描き直すと、新しい味わいが生まれる気がしていました。
───いろいろな昔話がある中で、シリーズ1作目を「桃太郎」にしたのはなぜですか?
クゲ:やはり、「昔話と言えば、桃太郎」と最初に思い浮かぶくらい、メジャーなおはなしだと思ったことと、一人称にしたときに、「桃の中」や「お供との出会い」「鬼との闘い」など、いろいろな場面を描けると思ったことが決め手でした。
───1ページ目から、桃の中の様子が描かれていて、まず目を奪われました。岡村優太さんの描く桃太郎の世界が、この「1人称童話」のコンセプトをとても分かりやすく表現していると思います。岡村さんは、どのような形で、この「1人称童話」の依頼を受けたのですか?
岡村:2016年の夏ごろだったと思います。ぼくは普段、雑誌や企業から依頼されてイラストを描いています。ただ、絵本には以前から興味があったので、今回、声をかけていただいたことがとても嬉しく、企画も興味のあるものだったので、すぐにやりたいとお引き受けしました。
クゲ:岡村さんのイラストは線がとてもユニークでありながら、非常に美しさもあります。さらにデザイン性も高いので、岡村さんにお願いしたら、この新しい「1人称童話」シリーズの「桃太郎」が、よりインパクトの強いものになるのではないかと思い、とてもワクワクしたんです。
───独特な線画のタッチがとても印象的ですが、画材は何を使っていらっしゃるのですか?
岡村:面相筆という、日本画で使う細い筆と墨汁を使って描いています。イラストレーターとして活動を始めたときから、スタイルは変わっていないですね。
制作風景。
───「1人称童話」シリーズの面白いところは、桃太郎の目から見たままの世界を描いているため、主人公である「桃太郎」の姿が、身体の一部分以外出てこないところだと思います。絵を描くときに、メインとなる主人公を描かないというのは難しかったのではないですか?
クゲ:ぼくたちが打ち合わせのときに岡村さんにお願いしたのは、昔話の『桃太郎』を意識しないでほしいということでした。それよりも、岡村さんの感じたままのタッチを生かしながら、出来事を客観的に描いてほしいと思ったんです。
岡村:そう言っていただいたので、ぼくもあまり「桃太郎」のおはなしであることを意識せず、文章に書かれていることを、絵にしようとしていました。
───桃から生まれたときの足の角度や、人々を襲う鬼の話を聞いて、膝を抱えている様子などから、桃太郎の表情や感情が想像できます。
クゲ:そうなんです。岡村さんは普段から色を使って描く方ではないのですが、限られた色からも、桃太郎の心情が鮮やかに浮かび上がってくるような感じで、原画を拝見したときに、とてもビックリしたのを覚えています。
───クゲさんとデザイナーの市川さんが特に好きな場面はどこですか?
クゲ:都から来た薬売りのおじさんの場面ですね。このおじさんの本当のことを言っているような、ほらを吹いているような表情、最高でしょう(笑)。こういうおじさん、いるよね!って、デザイナーの市川さんと一緒に盛り上がったんです。
市川:私は、桃太郎がきびだんごを犬、サル、キジにあげる場面も大好きです。やはり、表情が良いですよね。穏やかそうな表情をしているけれど、きっと、犬、サル、キジそれぞれに鬼退治に行く理由があって、桃太郎に協力しているんじゃないかと考えると、おはなしがとても深いものに感じるんです。
───岡村さんは、どの場面が特に思い入れがありますか?
岡村:やはり、鬼の場面ですね。今回のタッチって、ぼくが普段イラストの仕事で描いているものよりも、だいぶゆるく描かせていただいているんです。それでも、やはり鬼は桃太郎の一番の見所だから、迫力が出るようにしたいと思い、構図を縦にして、鬼の大きさを表現することにしたんです。
───今まで、たくさんのイラストを描かれてきたと思うのですが、『桃太郎が語る桃太郎』で特に気をつけたところなどはありますか?
岡村:イラストの位置ですね。見ていただけると分かるのですが、この絵本は真ん中部分に絵があって、左右に文字が配置されているんです。本のセンターは「のど」と言って、製本するときに見えにくくなるので、あまり重要な絵を描かないようにしなければいけない。なので、イラストを描くときにセンターをちょっと外して描いて、あとはデザイナーさんに位置を調整していただきました。
市川:岡村さんがプロのテクニックで、バランスよく絵を描いてくださったので、デザインしたときに、真ん中に良い絵をドンと置くことができました。
デザイナーの市川千恵さん。