●あなただけの「1人称童話」を作ってほしいと思います。
───『桃太郎が語る桃太郎』では主人公の桃太郎の言葉で、昔話の「桃太郎」が語られるわけですが、一人称で昔話を書くのは大変ではなかったのでしょうか?
クゲ:この作品を書く前は、この絵本はすでに「桃太郎」を知っている子を対象にしたスピンオフ的な作品になるだろうと思っていました。しかし、いざ書きはじめてみるとはじめて「桃太郎」と出会うお子さんも楽しめるように作りたいと思うようになりました。それと同時に、桃太郎以外の登場人物でも一人称で書くことができるのではないかと思うようになりました。
───おはなしが終わった後に、「ほかのとうじょう人物のお話もそうぞうしてみよう。」というワークのページがありますね。犬、さる、キジが桃太郎と出会う前に何をしていたのか、おじいさん、おばあさんが桃太郎の帰ってくるまでに何をしていたのか、考えるきっかけになる面白いページだと思いました。
クゲ:実はそこがこの絵本の肝かな、と。ぼくの文章は、あくまでも「サンプル」に過ぎないと思っています。『一人称童話』は、手にとってよむ子供たち一人一人が本当の主人公で、それぞれの独自の「桃太郎となった自分の気持ち」や「自分の性格」があると思う。それを物語に移し替えたら、きっと自分だけの「桃太郎」が生み出されると思います。ぜひ一度、絵以外は白紙のつもりで、「キミが桃太郎なら、どんな桃太郎?」や「ほかの登場人物のお話もそうぞうしてみよう。」を親子で楽しんで頂けたらと思っています。
───物語の主人公や登場人物になったつもりで、おはなしを考えるのはとても楽しそうです。ほかのおはなしでも自分なりの「1人称童話」が作れそうですね。
市川:そうなんです。小学校の国語の時間などによく「このときの主人公の気持ちを考えましょう」という問いかけがありますよね。それをもっと大胆に、物語の最初から最後までを主人公の気持ちになって語ってみましょうということを提案しているんです。
───クゲさんご自身は、「1人称童話」を書くとき、気をつけていたことはありますか?
クゲ:「感情、感想、感覚」。この3つが文章の中にたくさん出てくるようにするため、呪文のようにいつも唱えていました(笑)。そうしないと、どうしても既存の物語のように、主人公の心情から遠いものになってしまうからです。桃太郎がひとりで鬼ヶ島の鬼のことを考えたとき、どう思ったか、鬼と対峙したとき、どう感じたかをしっかりと言葉で描かなければ、一人称である意味がないと思ったんです。
───キャッチコピーの「ぼくは鬼がこわいと思いました。」というセリフは、桃太郎の心情をとてもリアルに表していると思いました。
クゲ:今回、ぼくはかなりベーシックな「桃太郎」像を書いていると思っています。なので、読者の方が書くときはもっとエキセントリックな桃太郎になるかもしれないですし、もっと元気いっぱいな熱血漢かもしれない。本を手にしたお子さんが、楽しみながら「1人称童話」を完成させてくれたら嬉しいですね。
───絵の中に一度も、桃太郎の顔が出てこないので、どんな表情をしているのか、想像を膨らませることで、キャラクターも固まってきそうです。岡村さんはこのような絵本の作りを分かった上で、絵を描かれたのでしょうか?
クゲ:岡村さんには、最初に「文章にあまり引っ張られすぎないでほしい」とお願いしました。そのため、構図や見せ方自体はすべて岡村さんのオリジナルです。先ほどの「ぼくは鬼がこわいと思いました」というセリフは、ぼくが岡村さんの絵を見て、思い浮かんだフレーズです。
───もしかしたら、ワクワクしていたかもしれないですし、怒りを感じていたかもしれない……。本当に、絵から想像が膨らんでいきますね。
岡村:ありがとうございます。ぼくは、自分が描きたいと思っていたタッチで絵本の絵を描くことができて、それだけで満足。また絵本を描いてみたいと思うようになりました。