●子どものころにこの本と出合っていたら、もっと早くマジックが上達していたと思います。
●大友剛 プロフィール
ミュージシャン&マジシャン。
自由の森学園卒業後、アメリカ・ネバダ州立大学で音楽と教育を学ぶ。帰国後、北海道のフリースクールのスタッフとして、不登校、引きこもりの若者と触れ合うかたわら、札幌の音楽事務所で作編曲、演奏、CM制作を手掛ける。
2005年よりフリー。音楽とマジックという異色の組み合わせで国内外で活動。又、おおたか静流、中川ひろたか、長谷川義史、室井滋との共演も多い。その他、ピアノ伴奏、マジックの教材制作、講習会、研修会にも力を入れている。
2010年、株式会社Music&Magicを設立。
2011春、NHK教育「すくすく子育て」にマジシャンとして準レギュラー出演。NHK教育「みんなのうた」で2010年2月に放送された『天の川』にピアノで参加。同作品が2011年ニューヨーク映画祭で銅賞を受賞するなど、海外でも高い評価を受けている。
───『りっぱなマジシャンへの道』を読んだ感想を伺えますか?
最初に作品を見て思ったことは、紹介されているマジックが、どれも素晴らしいということです。ぼくは小学校1年生のときにマジックに興味を持って、本格的にマジックをはじめたのは中学校1年生のときなのですが、ぼくが中学1年生から3年生までにはまったマジックがすべて、この本の中に入っているんです。
───そうなんですね。作者のマッド・エドモンソンさんは、イギリスで活躍されているマジシャンとのことですが、子どもたちがマジック好きになるツボを心得ているのかもしれませんね。
本当にその通りだと思います。ぼくがマジックをはじめたばかりのころは、マジックの本に載っているマジックは難しいものばかり。さらに、グッズをそろえるだけでも一苦労だったので、1つのマジックを自分のものにするだけでも大変時間がかかりました。でも、この本にはマジックをするときに使う道具も入っているじゃないですか。中学生のときにこの絵本に出合っていたら、もっと早くマジックを身に付けられたかもしれませんね(笑)。
───『りっぱなマジシャンへの道』の主人公・エリオットは、曾祖父でマジシャンのデクストリーニの隠し部屋を見つけたことで、マジックにどんどんのめり込んでいきますが、大友さんはどういうきっかけで、マジックに出合ったのですか?
ぼくは、小さいころからサーカスが好きで、近所でサーカスが来ると聞くと、親に連れて行ってもらっていました。サーカスの演目の中に、マジシャンが出てくるものがあるのですが、それが子ども心にとても衝撃で、惹きつけられたんです。ちょうどそのころ、テレビでMr.マリックなどの超魔術がブームになっていて、小学校でも、マジックが大人気。ぼくも、家にあるビデオカメラを使って、瞬間移動のようなマジックをやって友だちに見せていました。
───大友さんもエリオットと同じ、マジック少年だったんですね。『りっぱなマジシャンへの道』に載っているマジックには「パズルマジック」や「スピンマジック」のように、数学的要素を持つマジックがあるのが、意外でした。
マジックの中には、科学や数学的要素を持つマジックも多いです。ぼくはよく小学校でマジックのワークショップをするのですが、数学マジックや、科学マジックをあえて披露します。そうすることで、マジックを入り口に、数学や科学に興味を持つ子が増えてくれたら嬉しいと思っています。
───たしかに、マジックを通した方が、数学や科学により興味が湧きそうですね。
この『りっぱなマジシャンへの道』には、すでにマジックのグッズが入っていますが、一度、絵本を見てクリアしたマジックを、今度は自分で絵を描いたり、オリジナルのグッズを作って、チャレンジすることもできる。すると、想像力がつきますよね。そうやって、マジックのテクニックだけでなく、数学的興味や想像力など、いろいろな方面に広がっていけるのも、この作品の良いところだと思います。
───今回、大友さんには、奇跡の魔術師・デクストリーニ役として、動画にご出演いただきました。演じてみて、いかがでしたか?
最初は上手にできるか、戸惑いもあったのですが、デクストリーニの衣装を着て、カメラの前に立つと、ふしぎとデクストリーニの気分になっていきました(笑)。
───マジックの種を見せない手の動きなどは、かなり練習が必要なように見えました。
そうですね。すぐにできるマジックも多いですが、練習をした方が、見る人をもっと驚かせることができると思います。
───大友さんは、どうやって上達したのですか?
ぼくは、同じ学校の先輩にマジックがうまい人が何人かいて、彼らに教わりながら、自分も友だちや親にマジックを見せたりして、どんどん経験を積んでいきましたね。やっぱり、一人で練習するよりも、誰かに見てもらって、ビックリしている顔や、喜んでいる様子を目の当たりにする方が、「うまくなろう」という思いも強くなると思います。
───おはなしの中のエリオットも、「世界一のマジシャン」を探す旅の中でいろいろなマジシャンと出会います。大友さんにも先輩という心強いマジシャン仲間がいたんですね。
そうですね。あと、エリオットにはデクストリーニという憧れのマジシャンがいますが、ぼくの場合は、Mr.マリックの存在が大きかったですね(笑)。
───『りっぱなマジシャンへの道』では、7つのマジックがマスターできるようになっていますが、どのマジックが一番、子どもたちに人気になると思いますか?
どれでしょうね……。ぼくは、パズルマジックはすぐにできるので、オススメだと思います。ぼくの息子は、脱出イリュージョンが面白いと言っていましたね。
───それぞれ好きなマジックを見つけて楽しむのも良いですね。
たぶん、子どもたちは、柔軟で自由な発想で、いろいろな演出を自分たちで考えると思うんです。そうすると、7つのマジックが2倍、3倍と増えていき、新しい演出のマジックがどんどん誕生すると思います。
───なるほど。
それと、この『りっぱなマジシャンへの道』は、お父さんにもすごくオススメです。これを1冊持っているだけで、子どもたちのヒーローになれますから。
───たしかに、この絵本に出てるマジックをやってもらったら、子どもたちも目を輝かせますね。
子どもたちの前だけでなく、商談の相手へとか、飲み会のときの余興とか……(笑)。マジックはとても盛り上がりますから、1冊持っていて損はないと思います。
───子どもからお父さんまで楽しめる作品! すごくキャッチーですね。
あと、少しまじめな話をすると、マジックを演じたり、見ることは、日常から離れることだとも思うんです。ぼくは3.11の東日本大震災の後、毎年、東北でマジックの講演などを行ってきました。最初のころは、「こんな大変なときに、マジックなんかやってもいいんだろうか……」という葛藤もありました。しかし、実際に現場でマジックを披露すると、みなさんとても喜んでくれるんです。マジックを見ている時間だけは、ふしぎな世界に行っているという感覚になるんだと思います。
───なるほど。
マジックって基本的には種を教えないんですけど、東北のワークショップでは、子どもたちにどんどん教えたいという気持ちがあるんです。……というのも、ぼくが教えたマジックを、子どもたちが家族や周りの人たちに披露するだろう。そうすると、ぼくの手を離れて、そのマジックが知らない誰かを楽しませたり、ちょっとだけ日常から離れられるきっかけになるかもしれない。そう思っているんです。今までは、そうやってぼくのマジックをちょっとだけ種明かししていきましたけれど、これからはこの『りっぱなマジシャンへの道』があるので、この中のマジックを披露して、みんなにもチャレンジしてもらえたらいいなと思います。
───絵本ナビでもより一層この本をプッシュしていきたいと思います。今日はありがとうございました。
取材・文/木村春子
写真/所靖子