●早朝や土日などを使って、子育てと仕事を両立しています。
───田中さんは現在、子育てをしながら絵本を描いていらっしゃいますが、子育てと仕事の両立は大変ではありませんか?
そうですね。デビューしたころは子どもがいなかったので、自分のペースで創作できましたが、今は子どもの学校の行事があったり、家事があったりで、まとまった時間をとることは難しくなりました。
───『たぬきが のったら へんしんでんしゃ』はどのくらい制作に時間がかかりましたか?
この作品は、下の子が生まれたくらいからおはなしを考え始めているので、4年くらいかかっています。ラフが完成して原画の制作には、編集者さんと相談して、半年ぐらい時間をいただいていました。ただ、春から夏にかけてだったので、子どもの卒入園があったり、夏休みには、一日中子どもたちと遊んだり……。まとまった時間を作るのは大変でした。
───創作時間はどのように確保されているのですか?
夜、子どもたちが寝た後か、朝、4時ごろから起きてお弁当を作る前、2、3時間作業にあてていました。子どもが小学校や幼稚園に行っている間は、日中も制作していましたね。土日に主人に子どもたちを預けて、時間を作ることもありました。
───家族みんなで、絵本作りを支えてくれたんですね。
そうですね。子どもたちと一緒に遊びに行くと、8時間ぐらいずっと公園にいたりして、楽しいんですけど、くたくたになります。夜、寝かしつけるときに絵本を読んでいても、「寝ないようにしなきゃ、寝ないようにしなきゃ」と自分に言い聞かせていました。でも、ときどき本当に、眠くて仕方がないときがあって……。そんなときは、1時間ほど寝て、そのあと、起きて作業をしていました。
───ハードですね……。
でも、時間が限られていたからこそ、集中して絵に向かえました。気持ちも乗って、最初から最後までテイストが変わらず描けた感じがあります。
───お子さんへの絵本の読み聞かせは、寝る前にしているのですか?
はい。1人1冊ずつその日の気分に合わせて絵本を持ってきます。上の子は最近、自分では長いおはなしも読むようになったのですが、寝る前はやっぱり絵本が良いみたいです。
───田中さんご自身も、子どものころ、絵本を読んでもらった思い出はありますか?
私は、絵本が大好きな子どもでした。特に、『ぐりとぐら』(作:中川 李枝子 絵:大村 百合子 出版社:福音館書店)は、暗記するほど読んでもらった思い出があります。私が『ぐりとぐら』を好きだからか、うちの子どもたちも、『ぐりとぐら』を読んでもらうのが好きみたいです。
───お母さんが楽しんで読んでいる様子が、お子さんにも伝わっているんですね。
そうかもしれません。我が家の本棚には、私が子どものころに読んでいた絵本も並んでいて、子どもたちもよく、昔の絵本を「読んで」と言って持ってきます。何十年も前の作品なのに、今の子どもたちも、同じような感性で読むんだな〜と最初はビックリしました。でも、私の絵本もそうやって、長く読み継がれていくと良いなと思いながら、今は読み聞かせをしています。
───お子さんに、ご自分の絵本を読むことも多いですか?
そうですね。子どもたちが寝る前に持ってきます。中でも、『こんたの おつかい』が一番読む回数が多いですね。描いたときはあまり意識していなかったのですが、母になって読んでみると、寝る前に読み聞かせるのにピッタリの長さなんです。
───天狗や鬼など、ビックリする展開が入っていて、おはなしに緩急があるのも、子どもたちが大好きなポイントですよね。
絵本を描いた当時は、ただ子どもたちを怖がらせようと思い、迫力重視で絵を描いていたので、3,4歳くらいのお子さんを持つお母さんから「子どもが怖がってページを開こうとしません」というお手紙もいただいていました。でも、うちの子たちは小さいころから読んでいるからか、鬼や天狗が出てくるたびに大笑い。盛り上がりすぎちゃって、逆になかなか寝てくれないときもあります。そんなときは、『こんたの おつかい』の後に、ゆっくりと眠りにいざなえるような絵本を読んで、気持ちを落ち着けたりしています。
───そうして、子どもたちが寝た後に、田中さんは絵本制作をはじめるんですね……。いったい、どこにそんな体力があるのでしょう……?
うーーん……、強いて言えば、子どもが生まれる前に、砂漠マラソンに参加していたことでしょうか?
───砂漠マラソン?
サハラ砂漠や、ゴビ砂漠、ナミブ砂漠で行われているマラソンです。約1週間かけて、250q前後を走ります。
───それは、1人で走るのですか?
はい。1人で申し込んで、現地まで行きます。現地には同じようなマラソン仲間がいるので、仲間と励ましあいながら走ります。
───1日、約30qくらい移動するんですよね。相当ハードだと思うのですが……。
そうですね。日中は気温が50度近くにもなりますし、夜もかなり寒い。さらに1週間分の荷物を背負いながら走るので、きちんとトレーニングしないと大変です。でも、ずっと歩いてゴールしてもいいんです。私は、1年くらい準備期間をもうけ、国内の100qマラソンに参加するなど、砂漠マラソンに備えました。
───どうして砂漠マラソンに参加しようと思ったのですか?
砂漠マラソンに参加したかったというよりも、砂漠の真ん中に行ってみたかったんです。でも、観光で入ることのできる砂漠って、ほんの端っこだけ。砂漠マラソンだったら7日間どっぷり砂漠を歩けます。周りに人工物も一切ないので空も広くてすごくきれいなんです。子育て中はお休みしていますが、子どもたちが大きくなったら、また参加したいですね。
───お子さんが大きくなったら、親子で参加することもできそうですね。
下の子は、マラソンに興味があるみたいなんです。16歳から参加することができるので、年齢に達したら誘ってみるかもしれません。
───砂漠マラソンのことを聞いて、子育てをしながら絵本を描ける体力の理由が分かったように思います。
今は子どもを抱っこしたり、一緒に走ったり、子どもを抱っこしたり、子育てが一番のトレーニングですね(笑)。
───絵本制作の話から、砂漠マラソンの話までたくさんお話しいただき、ありがとうございます。最後に、絵本ナビユーザーへメッセージをいただけますでしょうか。
あまり難しいことを考えず、絵本を読んで笑ってもらえたら、最高ですね。絵本を楽しむこと自体もそうですが、読んでいるお父さんお母さんの声を聴く、絵を見る。そういうやりとりをご家庭で楽しんでいただけたら嬉しいです。私はこの作品を作りながら、「一直線に進むだけが最良の道ではないよ」ということを考えていました。毎日、子育てに追われていると、どうしても視野が狭くなってしまいがちですよね。たまには、たぬきたちのように、思い通りにならない子どもたちに合わせて、肩の力を抜いて、寄り道を楽しんでもらえたらと思います。
───真面目一徹だった、まじめさんもたぬきたちの奇想天外な発想のおかげで、困難を乗り越えていますものね。田中さんも、お子さんと一緒にいるとき、まじめさんのようになっていると感じることはありますか?
私は、たぬきたちみたいに「おかしなことが おこるのは あたりまえ」という気持ちで、いっぱい寄り道をして、楽しむようにしています。
───そういう気持ちでいた方が、子育ても楽しくなるかもしれませんね。
そうですね。あと、我が家では寝る前に絵本を読んでいますが、『たぬきがのったらへんしんでんしゃ』は電車の絵本なので、お出かけ前とか、電車の中とかで読むのも楽しいと思います。
───「今、走っている線路が、“びっくりせん”かも?」って思うと、子どもたちも盛り上がりそうです。
ご家族でいろいろ楽しんでください。
───ありがとうございました。
取材・文/木村春子
写真/所靖子
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