●ものさしから地球へ! 未来へ受け継いでいくモノの大切さを書いた『おさがり』
磯崎:『おさがり』は、「おねえちゃんのおさがりは恥ずかしい。新品がいい」というなっちゃんが、先生のおさがりの思い出話を聞いて、「おさがり」の印象がガラっと変わるのがおもしろいですね。
話はそこで終わりではなくて、生まれてくる赤ちゃんのために自分の物を大切に使おうとする、クラスメイトのともくんが登場してと、どんどん展開が広がっていくのが楽しかったです。
テーマはやっぱり「物を大切に」ということでしょうか?
くすのき:そうですね。実は僕自身、物をあまり捨てられない性格で(笑)。子どもも、大人が「なんでこんなん大事にしとるんかいな」って思うような、壊れたおもちゃとかを大切にしまっていることがあるでしょう。それは、単純に物だけじゃなくて、そこにある「記憶」も大事にしているからなんです。
例えば、友だちが鉛筆を折ったとか消しゴムをちぎってしまったというときに、「じゃあ新しいやつを買えばいいだろう」という解決方法もあるだろうけど、「これはおじいちゃんが買ってくれたやつだ」「入学式の時にお父さんと一緒に買ったやつだ」という特別な思い出があったら、その解決方法はちょっとどうかなとなる部分も出てくるわけでね。それは、物と同時に、思いも大事にしているからですね。
磯崎:とはいえ、今の時代は物が溢れていますよね。親の立場からすると、片付かないからとか、壊れたら新しく買った方が早いからと捨ててしまうこともあって。その一方で、「物を大切にしなさい」と言っても説得力がないのかなと思うんですね。 私自身も、「おさがり」の良さをうまく伝える自信がないので、「おさがりのものさしを見ると、おねえちゃんを思い出す」という先生の話は、なるほど! と思いました。
くすのき:やっぱりね、捉え方なんですよ。「おさがりは古くていや」じゃなくて、「おさがりだから、いっぱい思い出がある」という風に意味づけすれば、随分と違うものになっていくんです。
ものさしや消しゴムだったら、新しいものになったらそれはいいかもしれないけれど、学校の教室や机は、すぐに新しくならないでしょう。僕が先生をやっていたときは、「次に使うの子のために」と話をして、1年の終わりに教室をピカピカにするんです。窓ガラスもきちんと磨いて、ロッカーや机の中、イスも全部ふく。それもひとつの「おさがり」なんですよね。
考えてみれば、身の回りには、すぐに新しくできない物もたくさんある。それがお話の最後まで繋がっていくんです。だから裏表紙に、地球を描いてもらったんですね。簡単に新しくできないものだけど、未来の世代に渡して、受け継いでいくものだから。ですから、ぜひ、そこまで読んで欲しいのです。
磯崎:ものさしも地球も、同じということですね。
くすのき:そう、みんな繋がってるんよ。「今の自分たちがよければ」ということではない、ということでね。そういった視点を持って、じゃあ今をどうするかということも考えてほしいなという思いもあります。

小林:くすのきさんのお話の繋げ方や広げ方が、すごくいいんです。この絵本では「物」ですけれども、自分たちの命も同じで、親からもらった命を大切に生きなければという、子どもへの気持ちも感じられるし、読んだ子にもちゃんと伝わるなと思いました。
磯崎:それも、くすのきさんの創作テーマの1つになっているんですよね。
くすのき:そう。小さなところから始まって、もっと大きい視点につながっていったらいいな、気付いてもらえたらいいなって。だから先生はあえて、「あれも大切です、これも大切です」と言ってないんですね。「すてきな『おさがり』は、ほかにもたくさんあるわね」と言って、答えは子どもたちに委ねているんですよ。
磯崎:すてきな声かけですね。絵からも、やさしさが伝わってきます。
くすのき:やっぱり、子どもは先生が大好き。特に低学年だったらな、先生が明るい色の服を着ていると、子どももうれしい気持ちになったりする。むすっとした顔よりも、笑顔がいいし。だから絵でも、先生の人柄とか子どもを見る目とか、思い……そういったものが表情に表れるようにしてほしいと、絵を担当してもらった北村裕花さんにお願いして。
小林:そこがくすのきさんのこだわりなんですよね。元先生なので、教室の様子にもお詳しくて、棚の作りや教室の床の木目の方向まで、きちんと見てくださったので、心強かったです。

北村裕花さんが描く先生は、やさしくてかわいらしい理想の先生。黒板に書かれた文字や時間割の内容、標語の張り紙など、教室にあるすべての物の「本物らしさ」にこだわったそう。もちろん主役の「ものさし」には、細かい目盛りまで!
くすのき:教室はものすごく大事。学校の教室は、子どもたちの安全、掃除のしやすさなど、すべてのものがきちんと理由があって配置されているんですよ。
磯崎:そうだったんですね!
●子どもだけでなく、大人も気付きがあるシリーズに
磯崎:3冊のシリーズをまとめて読むと、改めて学校で学べること、学校ならではのことがたくさんあるんだなと思いました。同い年だけではなくて、年齢の違う子たちがたくさんいて、大人もいて、遊んだり話したりできるというのは、学校にいるからこそ体験できることですよね。やっぱり、子どもと学校の関わりは、切っても切れないと感じました。
くすのき:そう。本来、学校の中には、絵本で書いたことのような気づきや考える場、きっかけがたくさんあるんです。それは、「こくご」とか「さんすう」みたいな教科書の中よりも、子どもたちが過ごす学校という環境の中にこそ、ちゃんとある。だから「学校がもっと好きになる」というところに来るわけなんです。
子どもたちには、やっぱり学校が大好きで、学校は楽しいところだと思ってほしい。もちろんね、嫌なこともあるし、ケンカもするし、トラブルもあるんやけど、でも、それを乗り越える力があったり、みんなで考えたりいろんな話をしたり。それがあって初めて、学校だからね。そこではやっぱり、やさしくてすてきな先生がいてくれたらいいなと思いますね。
磯崎:シリーズ3作品とも、絵本の中で先生の役割がきちんと描かれていて、すごく大きな存在になっていますよね。声かけもすごくよくて、解決のきっかけを与えたり、心の持ち方をアドバイスしたりして、子どもたち自身に考えさせることで、対立している子どもたちの橋渡しをしてくれています。 そんな風に、大人の一言で子どもたちが変わるということを大事にしたい、むしろ大人がそうすべきだというくすのきさんの想いも、込められていると感じました。
くすのき:そうね。実は『いまから ともだち』のしらとり先生は、『三年二組、みんなよい子です!』(講談社)に登場する子どもたちが、2年生のときに教えてもらった「しらとりけいこ先生」なんです。このしらとり先生と、3年2組の滝野先生が結婚して生まれた子どもが、『いちねんせいになったから!』のたきのりゅうたろうくんという風に、登場人物たちが僕の作品の中で全部つながっているんですよ。

昨年、児童文学作家30周年を記念して作成された相関図。くすのき しげのり オフィシャル ホームページでも閲覧できます。
磯崎:この相関図は、見ているだけで楽しくなりますね! これから、くすのきさんの作品を読むときの見方が、いろいろと変わってきそうです。先生にもドラマがあって、子どもたちもどんどん成長して、おはなしの世界が広がっていくんですね。
「学校が好きになる絵本」シリーズは、わかりやすい上に、読み込めるところがあって、子どもたちだけでなく、大人にも届けたいなと素直に思いました。学校だけでなく家庭でもぜひ読んでもらいたいですね。
くすのき:そうですね。子どもが読んだら、子どもなりの捉え方をしてくれたらそれでいいし、大人が読むようなときにはまた、違うところに気付くこともあるんでね。それは、読んでくれた人に任せて、いろんなことを考えるきっかけになったらいいなと思いますね。
磯崎:私もそう思います。たくさんお話をしていただいて、ありがとうございました。

文:中村美奈子(絵本ナビ編集部)
写真:所 靖子(絵本ナビ編集部)











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