たくさんの人と関わり合いながら暮らすなかで、お互いに気持ちよく過ごすために大切なルールはなんでしょうか? それは、ひとりひとりの心にそれぞれ存在している善悪の判断基準、つまり「道徳」です。
ところが、全員が同じ「道徳観」を持っているわけではありません。「ご近所さんへの挨拶」ひとつとっても、「自分はするし、みんなもしたほうがいい」という意見と、「自分はしたくないから、しなくてもいいと思う」という意見など、人によって考え方はさまざまに分かれてしまいます。そんなふうに、子どもだけでなく、大人も「じゃあいったいなにが正しくて、なにが悪いの?」と思うことが、世の中にはありますよね。
「おしえて!コロ和尚 こどものどうとく」シリーズは、そんな難問に対して、仏教の観点からヒントを与えてくれる読み物絵本です。■答えの出しにくい道徳の問題に、「ほとけの教え」で回答します! 本シリーズは、仏教の教えを元に、子どもの道徳観を育む絵本です。本書は、ゆうひ公園に駆け込んでくる子どもたちが日ごろ不思議に思っている友だちや家族との関係などについて、犬のコロ和尚が明快に答えてくれます。コロ和尚の言葉は、監修者の釈徹宗僧侶の言葉です。仏教の教えをやさしく、子どもたちでもわかるように諭し、物事の本質について、親子で一緒に考える本です。
●学校や親に聞きづらい質問のこたえを、釈さんに聞いてみたかった
───「おしえて!コロ和尚 こどものどうとく」シリーズを作ろうと思った理由は、なんですか?
常松:平成30年度から小学校で、平成31年度からは中学校で、道徳が「特別の教科」になり、国が真剣に道徳教育に取り組む流れが生まれました。その中で、当たり前すぎて学校の授業では取り上げないことや、実際に子どもが悩んでいる問題に対して、ある方向性を持ったこたえをひとつ提案して、考えるヒントになるような本を作りたいと思ったのが、きっかけです。
───学校では取り上げないこととは、具体的にどんなことですか?
常松:実は僕自身が、「みんなで力を合わせよう」という題材を考える前に、「そもそも、なぜ力を合わせなくちゃいけないのかな?」と疑問を持ってしまう子だったんです。でもそれを授業中に先生に質問しても、たぶん怒られるだけだろうと思うと聞けなくて、ずっと心にひっかかっていたんです。そういう素朴な疑問に、きちんと向き合ったこたえを返してくれるのはだれだろうと考えたときに思い当たったのが、釈さんでした。
───釈さんがいいなと思ったのは、どんなところでしたか?
常松:釈さんは、大学で宗教学について教えている一方で、ご自身も僧侶として仏教を実践されていて、とても優れたバランス感覚を持っている、すばらしい方なんです。釈さんに、僕が子どものころに抱えていた疑問についてこたえて欲しいなと強く思い、監修をお願いしました。
───常松さんが子どものころに抱えていたという疑問は、なんですか?
───そうだったんですね。釈さんは「どうして、友だちをつくらなければいけないの?」というなやみに対して、どんなアプローチでこたえようと考えましたか?
釈:イメージとしては、「こうでなければいけない」というよりも、子どもが投げてくれたボールに対して、きちんと応答する。その考えの根拠を仏典にするわけです。けれども、短くて子どもにも読みやすい文章の中で、仏教の考えかたを紹介しながら、うまくこたえのボールを返すのは難しいなと思いました。そういう意味でこの質問のこたえは、「おしえて!コロ和尚 こどものどうとく」シリーズの象徴的なものになったと思います。
───これは「友だちはつくるもの」という前提を疑うような、なやみですね。「ひとりでいるのが好きだから」という気持ちには共感できる部分もあるので、正直、どうこたえていいか迷ってしまいます。
釈: そう考えると、友だちをつくらずにひとりで生きていけるというのは、自分ワールドで暮らしていて幸せな気がするけれども、たくさんの苦しみを生み出す。そういうところを、なんとか伝えたいと思って書きました。だから、「どうして、友だちをつくらなければいけないの?」の問いとこたえは、シリーズ全般に関わるところの社会性や他者性、利他性を、仏教の知恵を借りて語る形になりました。
───仏教の知恵とは、なんですか?
釈:なにか苦しみや問題が起きたら、今の苦しみや問題だけを解決する方法に目がいきがちですよね。でも、一時楽になる方法はあっても、根本的な問題は解決しないといいますか。そんなときに仏教では、これまで歩んできたもの全部を見直して、なぜ苦しみや問題が起きるに至ったかの原因を考えながら、人生を組み立て直していくという手法をとっていくんですよ。
次のページでは、釈さんから聞いた、「仏教」についての目からうろこが落ちる、おもしろいお話を紹介します!