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絵本ナビホーム  >  スペシャルコンテンツ  >  インタビュー  >  あふれる色と光、息をのむ絵の美しさ アカデミー賞ノミネートの名作が絵本に『ダム・キーパー』トンコハウス 堤大介さん インタビュー

Unsung Hero ――ほんとうのヒーロー

───『ダム・キーパー』の主人公は、孤独なブタの少年、ピッグ。ひとりぼっちでダムの上の風車小屋に住み、朝夕風車をまわすことで、汚染された空気「くらやみ」から、谷あいの小さな町をまもっています。
お話がはじまる最初の風景では、光にあふれた平和な町と、大きなダムの縁に見える「くらやみ」が対照的です。ダムの向こう側の、まっ暗な世界を想像させられますね。

そうですね。最初に、明るい町でいろんな動物たちが「くらやみ」のことなんか気にせずに暮らしている、映画にはない、町全体の風景を描きました。

「くらやみ」が町へ入ってこないように、朝と夕方、風車の大きなネジを巻いて、風車をまわして風を起こし、「くらやみ」を押しかえすのがピッグの仕事です。
だれも知らないところで毎日町をまもっているピッグは、縁の下の力持ち、“Unsung Hero”であり、ほんとうのヒーローです。でも町のみんなは、だれが風車をまわしているのか気にもせず、その意味も忘れて、ダム・キーパーの仕事でよごれたピッグをのけ者にします。

───ピッグが「よごれんぼ」とばかにされたり、いやがらせをされたりするのはつらい場面です。学校でも、いつもひとりぼっちのピッグですが、フォックスという名のキツネの女の子が転校してきて、ピッグの日常を変えていきますね。

フォックスは、明るくて絵の上手な女の子です。ある日、ピッグが男子トイレでいやがらせを受けていると、ためらわずに中へ入ってきます。フォックスは、だれとでも仲よくなれて、しかもユーモアがあるんです。いじめっ子が泣いている絵を描いてみせて、一緒に絵を描こうとピッグを誘います。短編映画では、ここで黒い木炭を使いますが、絵本では、ふたりで絵を描くことの楽しさを色でも表現したかったので、カラフルなクレヨンで描いていることにしました。 クレヨンを手や顔にいっぱいつけて絵を描くふたりの場面は、僕も大好きな場面です。

自分の中の「くらやみ」に立ち向かう

───次の日も一緒に絵を描く約束をして、ピッグとフォックスは手をふって別れます。このページは、外から差しこむ光と、学校の廊下が白く輝いているように見えるのが印象的でした。

ここは、ピッグがはじめて笑顔を見せる大事な場面なので、表情が際立つようにしたいと思い、あえて床をまっ白にしました。

この絵本の前半では、ピッグは感情をあまり見せません。自分の心をまもるため、傷つかないように心を閉ざし、笑顔を見せなくなっていたんです。その心をはじめて開かせたのが、フォックスでした。だから、ある事件が起こったとき、ピッグはフォックスに裏切られたと思い、ひどく傷ついてしまいます。

───学校帰りのバス停で、ピッグは、フォックスがほかの子たちと笑いあっているのを見かけます。そのときフォックスの手には、「よごれんぼ」と書かれたピッグの絵がありました。それを見たピッグはショックを受け、思わずその絵をうばって、かけだします。

「ぼくのむねは まっくらに なった ひとりぼっちには なれていたのに どうしていいか わからない」……。傷ついてとまどうピッグは、風車をまわす時間を忘れてしまいます。

これは、「心の中のダム」のお話でもあるんです。ピッグは、心の中にダムを作って「くらやみ」を押しとどめていたけれど、フォックスという友だちができたことで、そのダムが崩れてしまう。友だちができたのはいいことなのに、無防備になったせいで「くらやみ」が入ってきて、心が「くらやみ」におおわれてしまいそうになる……。

でも、ピッグは、自分の悲しみのことばかり考えているあいだに、町が「くらやみ」だらけになってしまったことに気づいて、必死でダムに向かい、風車をまわそうとします。だれが何と言おうと、自分のことを笑おうと、風車をまわすのだという強い意志が生まれた場面を、絵本では描きました。

───個人的な感想なのですが、絵本を一緒に読んだ3歳の息子が、最初にピッグが風車をまわすシーンで「やってみたいなあ」とうらやましそうに言ったとき、ハッとしました。ピッグもはじめは、風車をまわすのは楽しかったのかもしれない。でもダム・キーパーとしての責任を背負う日々が、いつしかピッグから笑顔を奪ってしまったのかもしれないと思いました。

そうですね。本当はピッグのような小さな子どもに、町をまもるなんていう大きな責任を負わせてはいけないんです。この子にとっては酷な状況で、フォックスと出会い、隠していた子どもの無垢な部分が引きだされたピッグは、よけいに傷つきやすくなってしまった。

でも、たとえ小さな子どもであっても、何かモヤモヤした気持ちを持つことはあると思うんですよね。心の中に「くらやみ」を持つことがダメなんじゃなく、子どもなりにその「くらやみ」と向きあって、それを乗りこえていかなくてはいけない……。もちろん大人もそうですよね。『ダム・キーパー』は、自分の中の“闇”から逃げずに、そこにどんなふうに立ち向かって生きていくのか、というお話でもあります。

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堤大介(つつみだいすけ)

  • 東京都出身。18歳で渡米して、アートを学び、その後ルーカス・ラーニング社をへて、ブルースカイ・スタジオで「アイス・エイジ」「ロボット」などのコンセプト・アートを担当。2007年ピクサー入社。アート・ディレクターとして「トイ・ストーリー3」「モンスターズ・ユニバーシティ」などを手がける。2014年7月、ロバート・コンドウとともにトンコハウスを設立。世界中から71人のアーティストが参加したプロジェクト『スケッチトラベル』の発案者でもある。

作品紹介

ダム・キーパー
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作:トンコハウス
出版社:KADOKAWA
全ページためしよみ
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