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絵本ナビホーム  >  スペシャルコンテンツ  >  インタビュー  >  東京大空襲を生き延びた少年が語る真実とは…『焼けあとのちかい』半藤一利さん 塚本やすしさんインタビュー

「人物」を際立たせて文章を読んでもらう絵の工夫

───絵本づくりは、塚本さんが中心になって進めたのでしょうか?

塚本:自分の絵本を作るときは、7割方僕がデザインをしているんですが、今回は、文章を整えるのは藤代さん、デザインは装幀家の宮川和夫さんにお願いしました。
この作品は半藤さんの絵本なので、各方面のプロの方の客観的な目で見ていただくのが良いと思ったんです。

半藤:塚本さんがすごいところはね、私が返事をしてから、絵を見せてもらうまで、随分早いんですよ。

塚本:綿密なタッチの絵だったら時間がかかると思いますが、今回のような絵柄だと早いんです。
すべてのページを2ヶ月くらいで描きましたね。

森:半藤さんにご挨拶する前に、塚本さんにラフを描いていただいたんですが、そのラフ画のおじいさんが半藤さんにとてもよく似ていたのには、びっくりしました。

塚本:その時点では、半藤さんの似顔絵を描いたわけではなく、あくまで戦争体験を語るおじいさんのイメージだったんです。
実際にお会いして、さらにちょっとご本人に似せようと思いました。


絵本は、現代の半藤さんが当時の出来事を語りはじめるという導入から始まる。三輪里稲荷神社は今もあり、塚本さんは絵を描くためにロケハンにも行った。

───先に描かれた『せんそう 昭和20年3月10日 東京大空襲のこと』もそうですが、人物に肌の色を入れていないのには、理由があるのですか?

塚本:普通の絵本は「絵」と「文章」でできていますが、この絵本は「背景」と「人物」、そして「文」という3つの要素にきっちりと分けたかったんです。
重要な人物である半藤さんをクローズアップさせて文章を読んでもらい、背景はそのイメージを広げる役割を持たせたいと、ずっと考えていました。そういう絵の構成や使う画材は、直感で選んでいます。

半藤:私はラフで見せていただいたんですが、そのときに少し絵を直してもらっているんですね。民ちゃんのスカートをもんぺに替えてもらったり…。


戦争が始まると服装も規制され、女性はもんぺをはくことが義務づけられていたため、戦時下を描いたシーンでは、民ちゃんの服装がもんぺになった。

半藤:あと「私は金ピカのボタンがついた中学生ですから、偉そうにしてください」なんて言ったら、たちまち直ってきちゃうんですよ。
防空壕なんかは、直すのが大変だったでしょう。向島の防空壕は、トンネルのように掘って作れなかったんです。海抜ゼロメートル地帯だから、掘るとすぐに水が出て来る。
なので、木の柱を立てて、その上に布と土を被せたものになったんですね。

塚本:僕はせっかちなんです。修正の話を聞いてしまうと、夜中でもなんでも描かずにはいられなくなって(笑)。
あと、どんな修正がきても、半藤さんの赤字は意地でも絶対に直すと決めていましたから。


塚本さんが最初に描いた防空壕は「トンネル型」だった。しかし事実と違うという半藤さんの指摘で、今の形に描き直された。

───この絵本では、空襲から逃げるシーン、特に火の表現の力強さに圧倒されます。半藤さんは、塚本さんの絵を見てどんな風に感じましたか?

半藤:私は自分で体験していますけれど、まさに絵に描かれた通りですね。
文章で書くと「火炎が怒涛のように」とか「黒煙が噴騰する」という風に書くでしょうが、どうにもうまい言葉が見つからないけれど、絵の力はすごいね。


空襲を受けて、あっという間に燃え上がった町。

塚本:母から、みんなが布団を被って逃げたことや、その布団に火が燃え移ってボワーッとなったという話を聞いていたので、火の粉がそこら中に飛び散っている感じを、スプレーで表現しました。

───火の勢いと迫力がすごくて、鬼気迫る感じがします。こちらは、メイキング動画も発表されていますが、スプレーづかいもまたすごいですね。

塚本:火災のシーンを描いていたら、火の粉ならぬスプレーを僕が浴びちゃって、鏡を見たら顔に絵の具が飛び散っていたんです。
描き終わった後で「もうスプレーは使わない」と、焼けあとのちかいを立てました。まあ、冗談半分ですが(笑)。

───(笑)。でも、こんな火に追い立てられたら、本当に逃げるのは大変だったと思います。

半藤:絵本ではわからないけれど、自分の家から逃げおおせた中川までは、かなり遠いんですよ。
でも、夢中になって逃げているから、距離なんてわからない。それで途中で「火なんてもう来ねぇや」と思って、ばかみたいにひと休みしたんです。
そうしたら、ものすごい勢いで火と煙が追いかけてくる。その様子を、自分で経験していない塚本さんが、よくもまぁ見事に再現して。
こんにゃく稲荷(三輪里稲荷神社)の鳥居やラジオなんかも、当時の形なんだよね? 九段下にある昭和館には行ったことがあるの?

塚本:はい。昭和館には何度も行きましたし、地元の墨田区にある、関東大震災についての記録を残した震災記念堂(東京都慰霊堂)に行って参考にしたものもあります。
当時の様子を、できるかぎり再現しようと思って、資料も集めました。

───そういった細かい部分にもこだわりがあったんですね。絵本では、火にまかれ命を落とした人の姿もありますが、絵にする場合に特に気をつけたことはなんですか?

塚本:絵本を読むのは基本的に子どもなので、命を落とした人の姿をリアルに描くとトラウマになってしまうと思いました。
かといって、あまりにも漫画的な表現では、戦争の怖さが伝わらないので、その絵柄の塩梅が少し難しかったです。

───塚本さんが、絵本で伝えたいことを大事にしつつ、読み手を意識した絵作りを行ったことがよくわかりました。
次のページでは、半藤さんと塚本さんが絵本で一番伝えたかったことをお伺いします。

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半藤 一利(ハンドウカズトシ)

  • 1930年東京・向島生まれ。東京大学文学部卒業後、文藝春秋入社。松本清張、司馬遼太郎らの担当編集者をつとめる。
    「週刊文春」「文藝春秋」編集長、専務取締役などをへて作家に。「歴史探偵」として主に近現代史についての著作を多数発表。
    主な著書に『日本のいちばん長い日──運命八月十五日 決定版』(文藝春秋)、『漱石先生ぞな、もし』(文藝春秋、第12回新田次郎文学賞)、『ノモンハンの夏』(文藝春秋、第7回山本七平賞)、『昭和史1926-1945』『昭和史 戦後篇1945-1989』(平凡社、第60回毎日出版文化賞特別賞)など。

塚本やすし(ツカモトヤスシ)

  • 1965 年東京生まれ。絵本作家。児童文学作家。公益社団法人日本文藝家協会、絵本学会、子どもの本・九条の会会員。
    主な絵本に『ふねひこうきバスきしゃ』(くもん出版)、『ちいさな いえでのものがたり おかあさん!』(冨山房インターナショナル)、『しんでくれた』(谷川俊太郎・詩、佼成出版社)、『せんそう――昭和20年3月10日東京大空襲のこと』(塚本千恵子・文、東京書籍)、その他多数。
    絵本作家として毎年、日本全国の図書館やイベント会場や書店等で、絵本の読み聞かせやライブぺインテングに取り組んでいる。

作品紹介

焼けあとのちかい
焼けあとのちかいの試し読みができます!
文:半藤 一利
絵:塚本 やすし
出版社:大月書店
全ページためしよみ
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