●グラフィックデザイナーの経験が絵本づくりの糧に
───絵本を作る前は、デザイナーだったのですか。
そうですね。今もデザイナーの仕事もしていますし、あれこれやっている感じです。 もともとは、僕が高校を卒業するくらいに、地元の名古屋でテクノやヒップホップが流行り出し、遊びに行っていたクラブで「美術系の大学生なら、フライヤー作ってくれない?」と声をかけられたんですね。大学は確かに美術系でしたが、版画や彫刻、映像など幅広く学ぶ感じで、グラフィックデザインを学べたわけではなく……。ただ学校の紹介で、グラフィックソフトウェア入りのパソコンを買うことができたので、それを使って、独学で覚えました。
───なぜイギリスに?
大竹伸朗さんの『倫敦 香港 一九八〇』(用美社)という本が好きで、「かっこいいな」とあこがれていたんです。「どこか行くなら、同じ場所に行ってみたい」と思って、仕事も何も決まっていないまま、ただ行きました。最初の数か月はサインドイッチ屋さんで、その後は在英日本人向けのタウン情報誌の会社で広告デザインをしていました。
───そうなんですね! ロンドンでは、どんなところに住んでいたのですか?
僕が住んでいたイーストロンドンのブリック・レーンのあたりは移民が多く、エスニック料理店も多かったし、屋台でソーセージを焼いていたり、ストリートミュージシャンやタップダンスを踊っている人がいたり、雑多な空気感がありました。 家から歩いて5分のところで毎週蚤の市があって、ヘンなものがいっぱい売っているんですよ。壊れたコップとか、片方だけの靴とか、「これ、誰が買うんだろう?」と思うようなものが(笑)。家賃が安いからか、芸術家の卵のような人たちも住んでいて、ジャンクなものが売り買いされる蚤の市はおもしろかったですね。 もう廃棄されるゴミにしか見えないような古紙の束が、1ポンドとかで売っていて、「コラージュ制作に使えないかな」と買うようになりました。
───コラージュ制作は、海外での生活から生まれたものなのですね。
最初は大竹伸朗さんの真似でしたが、だんだん「この制作方法は自分に向いている」と思うようになりました。紙を使った制作は大きな機材や工房も必要ないし、出不精の僕にとってすごく楽というか自然で。外国語で印刷された文字、切手の模様、ざらっとした質感も「紙っていろいろでおもしろいな」と……。ボローニャに入選したことでコラージュ制作の手法に自信が持てるようになっていったと思います。
●子どもと遊ぶことが好き
───「絵本を作りたい」という思いは、いつ頃からあったのでしょうか。
いつからだろう……。イギリスに行く前も絵本を作りたくて、自分が好きだった『からすのパンやさん』みたいなストーリー絵本を、ギャラリーのコンペや出版社の絵本賞に応募してみたんですが、賞には引っかからなかったんですね。「文章って難しいな……」とも思いました。
デザイナーの仕事もおもしろいですけど、昔から「子どもたちと遊びながら一緒に何かをやること」がずっと好きで、僕にとっては自然にできることだったんです。
たとえば、自分自身も親が働いていたので学童クラブに行ってたんですけど、高校卒業後18歳から20 歳まで、その同じ学童クラブでアルバイトをしていました。
就職してイギリスへ行って、帰国後に保育園でまた5、6歳の子と遊ぶようになって……。ちょうど息子が生まれたこともあり、だんだんその頃から、低年齢向けの絵本を作りたくなりました。今、興味があって、創作意欲があるのは、より下の年齢向けの絵本です。
●「とびだす絵本」のおもしろさを追求
───すぎはらさんにとって絵本制作とはどんなものですか?
人生のそのときそのときの集大成であり、自分の「やりたいこと」や「好きなもの」が詰まったものかな。デザインも自分でするので、それも含めて、楽しいところです。
───『とびだすえほん たべるのだあれ?』には、丸ごと1冊、すぎはらさんの想いがぎゅっと詰まっているんですね。次の作品がどんなものになるのか、とても気になるのですが、今後の絵本の制作予定を教えてください!
『とびだすえほん たべるのだあれ?』で、本をパタパタする動きと、口がパクパクする動きの連動性がおもしろいことに着目できたので、ここはまだまだ追求したいと思っています。続編を制作中ですが、「食べる」以外の何かおもしろいポップアップもできたらいいなと思っています。
───最後に、絵本ナビ読者へメッセージをお願いします。
あまり大事にしまい込まずに、どうぞ、ビリビリになるくらいまで遊んでください。お子さんの指が引っかかったくらいでは破けないよう、なるべく厚い紙を使っていますが、紙ですから、破れて当たり前。「ああ破れちゃう」とお子さんを止めたりせず、動物の口に手を入れたくなるなら、おままごとのニンジンでもスプーンでも突っ込んでもらって(笑)。自由に遊んでほしいと思います。 僕の周りでは、お父さんが子どもに読んでいるときに、最後にカバが大きく開けた口でワーッと子どもの頭を食べちゃうとか、そういうふうに楽しく読んでくれている動画を送ってくれる人もいます。
───ありがとうございました。
取材・文:大和田佳世(絵本ナビライター)