ぼくの布団はゆっくりと波のたゆたう海になっている。夜を迎えるごとに、ネコになり、パンになるぼくの布団…。そんな幻想的でゆったりと時間の流れる絵本『ぼくのふとんは うみでできている』。作者はデビュー作『オオカミがとぶひ』(イーストプレス)で第18回日本絵本賞大賞を受賞し、人気ドキュメント番組「情熱大陸」にも紹介された絵本作家・ミロコマチコさん。今、最も注目を集める絵本作家さん待望の新作です。ミロコさんがどのような発想で絵本を制作しているのか、絵本ナビスタッフ一同、興味津々。ミロコさんのアトリエにお伺いして、新刊が生まれるきっかけのお話を沢山聞きました。
うみのふとんでおよぎ、ねこのふとんをこねこね、パンのふとんはむしゃむしゃ…。夜の夢と朝の目覚めの行ったり来たりが楽しい絵本。
●「タイトルが浮かんで、おはなしが動き出しました」
───新作『ぼくのふとんは うみでできている』。タイトルから想像される不思議な雰囲気をさらに裏付けるように進んでいくストーリーに、大きなものに抱かれるような安らぎを感じました。今回のおはなしはどのように生まれたのでしょうか?

最初は寝るときのおはなしを描きたいと思って、ぐるぐるアイディアを考えていたんです。そうしたら、ポンッと「ぼくの ふとんは うみで できている」というフレーズが浮かんできて、この言葉を膨らませておはなしを作っていったら面白いんじゃないかと思って考えていきました。
───おはなしを考えるときに、タイトルが先に出てきたのは珍しいことですか?
初めてですね。タイトルは最後に考えることが多いので。このタイトルに決まる前に「ぼくのふとんは うみのふとん」というような、同じ意味のフレーズも考えてみたんですけど、「うみでできている」という言葉が気に入って。こっちの方が何かはじまりそうなワクワク感を感じてこのタイトルに決めました。
───青く深い夜がまさに海そのもののように感じられて、熱帯夜でもぐっすり眠れるような読後感で、きっとミロコさんも夜が好きなんだろうな…と思ったのですが、エッセイで「暗闇が怖い」と書かれていてビックリしました。
そうなんですよ。実はとっても怖がりで、夜の闇は今でも苦手なもののひとつなんです。
───それなのに、あんなに想像力をかき立てられる発想が生まれることに、ただただ驚きを感じます。暗闇はいつから苦手なんでしょうか?
小学校高学年くらいのときって、学校の怪談やコックリさんなんかがはやるじゃないですか。友達と一緒にいるときは怖い話もへっちゃらなんですが、夜、一人で布団に入るともう怖くて眠れなくなっちゃうんですよね。親からは「大人になれば怖くなくなるよ」と言われたこともありましたが、全然なおらなくて…。背中とかが無防備だと特に不安。出かけるときはなるべくリュックで背後を防御したいし、仕事机も壁を背にした位置に置きたい。そうやって怖い怖いと思って眠るから、必ず悪夢を見るんですよ。
───絵本の中のワニの夢と同じですね。目が覚めるとやはりネコがいるんですか?


───でも、絵本では夜の怖さだけではなく、パンの布団から香る焼きたてのおいしい香りや、ゾウに布団をうばわれて真っ青になって震えるぼくなど、プッと笑える夜も描かれてますよね。
男の子の顔の青さは、編集者さんから「ちょっと青すぎない?」とも言われたんですけどね(笑)。ラフを描いたときはあまり青くなかったんですよ。