
ある南の小さな島に暮らす6才の正吉の家に、生まれてまもない子ヤギがやってきます。長いまつげに、真っ黒なやさしい目。白くむくむくした元気な男の子です。「おれのヤギだ! おれのヤギ!」。大喜びの正吉は、小屋をつくったり草原に連れていったり……。おじいやおばあに見守られながら幸せな時間がゆっくりと流れていきます。けれども、ある日、島の沖合で轟音が響き、たくさんの黒い軍艦が現れます。太平洋戦争末期の沖縄が舞台の物語。

壊される前の日常
正吉とヤギののどかな日常の向こうに、迫りくる戦争の恐怖があることをすっかり忘れていました。
正吉の父親は戦争に行き、母親は別の島に働きに出ていて、兄も島を出てしまって、祖父母と暮らしています。
戦争の影と生活の苦しさがあるのに、この物語はあくまで伸びやかです。
それは正吉の相手となったヤギのの存在と、二人を中心に描かれているからでしょう。
それだけに突然現れた敵機の編隊、多くの軍艦からの艦砲射撃にびっくりしました。
これから悲惨な戦場となる沖縄が舞台だったことを忘れていました。
そしてさり気なく書かれていますが、正吉は学童疎開船「対馬丸」に乗って撃沈されたのでしょうか。
悲しみの余韻が大きすぎて、読後に表紙を見るのが辛くてたまりません。
(ヒラP21さん 70代以上・その他の方 )
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