
クリスマスイブにある家族のところへやってきたちいさなもみの木。けれども家族は貧しくて、飾れるものといえば茶色いクッキーだけ。もみの木は、自分のみどりばかりの枝に、きらきら光る星やおもちゃをいっぱいつけて、素朴で優しい心をもった夫婦と素直でほがらかに育っている子どもたちを喜ばせたいと考えます。そこで植木鉢から根っこをぬき、雪の森へとかけだします。
もみの木は、ノームたちやゴブリン、オオカミ、つりをしている少年……などあらゆる人たちと出会っては、その人たちが持つきらきらするものをもらえないかお願いをします。そして、その代わりに自分の体から「みどりの針」を渡していきます。「みどりの針」は、ネックレスを作る道具やとげ抜き、つり針になる、とても便利なものなのです。 けれどもその「みどりの針」以外に、いつもみんなが欲しがるものがありました。それはお母さんが子どもたちのために愛情こめて焼いたクッキー。もみの木はできるだけクッキーを守りながらも、自分の体から針や枝を差し出し、懸命に、きらきらする飾りやおもちゃを集めていきます。しかしふと水面に映った自分の姿を見たもみの木は……。
作者は、イギリスの児童文学作家アーシュラ・モリー・ウィリアムズ。他の邦訳作品には、『魔女のこねこゴブリーノ』や『しあわせいっぱい荘にやってきたワニ』などがあります。どれも本作と同じように主人公の心優しさがにじみ出る作品ばかりのように感じます。そしてこのお話をいっそう温かく彩る挿絵を描かれているのは、イラストレーターの嶽まい子さん。表紙は華やかですが、本文の中の色数が抑えられた挿絵は、静謐で温かな印象を残します。細い足で旅するちいさなもみの木はとても愛らしく、はじめからずっともみの木に飾られているクッキー(ちいさな茶色のねずみたちのようと表現される)もまるで生きているかのよう。さらに家族が集う場面では貧しいながらも仲良く暮らしている様子が伝わってきて、幸せな気持ちにさせてくれます。そんな贅沢な挿絵が全てのページに描かれる本書は、小学校低学年の子のはじめてのひとり読みもやさしく応援してくれるとともに、大人の心もたっぷり満たしてくれることでしょう。
お話の文では、もみの木に飾りが増えるたびに「ダイヤモンドがえだのあいだでかがやき、クッキーがちいさな茶色のねずみたちのように、ぴょこぴょこはずんでいます。」という文にどんどん言葉が加わったり、他にも繰り返しの文がたびたび出てくる面白さがあります。声に出して音読してみたり、大人が子どもに読んであげるのもおすすめです。
「大切な人を喜ばせたい」という、クリスマスの精神にも通じる尊い思い。その思いが奇跡を呼ぶことになったのでしょうか。読み終えた後、ちいさなもみの木の一生懸命な姿がいつまでも心に温かな余韻を残すクリスマスの名作です。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)

クリスマスイブ、貧しい農家のお父さんが、子どもたちのためにちいさなもみの木を見つけてきました。けれども、飾りは茶色いクッキーだけ。きらきら光る星やおもちゃでいっぱいにして、この家族をよろこばせたい……そう考えたもみの木は、植木鉢から根っこをぬき、雪の森へとかけだします。クリスマスの心をつたえる愛らしい絵物語。
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