|

岩手のみずからのドリームランドとした賢治の童話集。表題作のほか「雪渡り」「よだかの星」「祭りの晩」「セロ弾きのゴーシュ」など、郷土色豊かな作品を中心に10編を収める。[解説 佐藤通雄]

ほんとうのさいわい、とは
名取佐和子さんの『銀河の図書室』には
宮沢賢治の本がたくさん紹介されていますが、
この岩波少年文庫版の『風の又三郎』もそのなかの一冊。
しかも、これは主人公の一人が図書室から何度も借りだしていて、
物語の中でも重要な一冊になっています。
この版に収録されているのは、表題作である「風の又三郎」のほかに
「雪渡り」「よだかの星」「ざしき童子のはなし」「祭の晩」
「虔十公園林」「ツェねずみ」「気のいい火山弾」「セロ弾きのゴーシュ」「ふたごの星」の
10編。
『銀河の図書室』の中で、この本を借りようとする生徒に先生が
「どのお話が目当てでこの本を借りるのか」訊ねる場面があります。
この生徒にとって、この岩波少年文庫版の『風の又三郎』は弟との思い出の一冊で、
物語の中盤の大事なところで使われています。
長くなりましたが、久しぶりに宮沢賢治を読もうと思ったのも、
それもできれば岩波少年文庫版で読もうと思ったのは、そういう訳です。
収録されている10編の中では表題作である「風の又三郎」が有名だし、
宮沢賢治の代表作のひとつであることは間違いありません。
久しぶりに読み返してみると、転校生で風の又三郎だとからかわれる少年と
田舎の小さな小学校の子供たちとの交流が実に生き生きと描かれていることに
あらためて児童文学の傑作だと再認識しました。
これらの作品の中でお目当てと訊かれたら、
私なら「虔十公園林」と答えます。
みんなに馬鹿にされながらも虔十が作った公園が「ほんとうのさいわいが何だかを教え」てくれると
物語の最後に書かれていますが、
この物語こそ「ほんとうのさいわい」は何であるかを考えさせてくれる名作です。 (夏の雨さん 70代以上・パパ )
|