★本書の翻訳者訳間崎ルリ子さんの素敵なコメントをご紹介します。
(間崎さんはエッツの「もりのなか」なども訳されています。)
『おやすみ、かけす』によせて
この本の中で、主人公の男の子は、カケスやカエルやヤギのなきごえに耳を傾けたり、
風にゆれる葉のそよぎに耳を澄ましたり、「おやすみ」とはなしかけたりしています。
『わたしとあそんで』(福音館書店)や『あるあさ、ぼくは』(ペンギン社)、
『モーモーまきばのおきゃくさま』(偕成社)などにも出てくるこのような動物たちは、
みな、作者のエッツにとって、幼いころから親しい愛すべきものとして、身近にあったようです。
ことばをかわし、それらと一体化して、静かで深い喜びを感じる子ども時代を過ごしたからこそ、
このような絵本がうまれてきたのだと思えます。
このようなエッツの絵本を楽しんだ子どもは、いつの間にか、
自分も自然や身の回りのものたちと一体化することができるようになり、
日々を楽しく豊かに生きることができるようになっていくようです。
幼い時代に、いろんなものに耳を傾け、忙しい大人の生活の中では
見過ごしてしまうようなことに目をとめ、喜びを感じたり楽しい思いをしたりすることが、
子どもに与えられた特権であり、ひいては、現実に処していく力を与えられ、
大人となった時、心豊かにくらしていける下地を作るのではないでしょうか。
2008年11月

◆自然と心を通わせる
冒頭でも述べた様に、「わたしとあそんで」での女の子と動物達とのやりとりのシーンは、
私の心の中に強烈な印象を残しました。それは、自然そのものなのですね。
エッツにとって幼少時に当たり前に慣れ親しんできた動物達との事を、ありのまま描いているだけなのです。
だから時には切なさを伴う描写もありますが、絵本全体はのどかで温かな雰囲気に包まれているのです。
自然と心を通わせる喜びにあふれているのです。
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「わたしとあそんで」
ぽかぽかと暖かい日差しの中、女の子は原っぱへあそびにいきます。
ばったやかえるを見つけて、女の子はつかまえようとしますが・・・。
小さな動物との交流を、このうえなくあたたかくうたいあげた絵本で、
多くの人の心に印象を残している名作です。
理屈でなく喜びが伝わってくる、エッツの描写がまた素晴らしい!
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「モーモーまきばのおきゃくさま」
こちらも自然界のありのままの姿を伝えていながらも、
喜びや幸せを描きだしている温かな絵本です。
やわらかで生き生きとしたエッツ独特のタッチが、
のどかな牧場の雰囲気にぴったりなのです。
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「ジルベルトとかぜ」
ジルベルトは風と友だち。風船や凧で遊んだり、船を走らせたり。
絵本の中には、一見男の子しか登場していない様ですが、
確かに風が存在している事を感じる絵がとても味わい深く印象的。
そして、風を相手に感情の揺れ動くジルベルトがまた子どもらしく
微笑ましいのです。
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◆それぞれの人の心に残るエッツの絵本
エッツは、子どもの好きなものを・・・と描こうとしてみたけれどなかなかうまくいかず、結局自分の心の中にある本当の事を描かなければと悟ったそうです。彼女の幼き日に遊んだ時の思い出をもとにつくられていった数々の名作、だから大きなインパクトはなくとも子ども達の心にすっと入り込んでいくのかもしれませんね。
また大人にとっても、それぞれの人によって受け止め方や心に残る部分が違うのもエッツの絵本の魅力の一つ
かもしれません。
そこでこの人にも、一人の大人として、またパパとして感じるエッツの作品の魅力を語ってもらいました。
★カナガキ絵本ナビ事務局長のお気に入りは・・・。
もうすぐ8歳になる娘は、一人で読み物や絵本を読むことが多くなった。
休日には娘と僕と妻が、同じ部屋で同じ時間を共有しながら、
それぞれ別の、自分の本を読んでいる。
膝の上で一緒に絵本を読むのとは違った楽しさで、
これもまた「幸せな時間」なのです。
そんな娘が珍しく寝付けずに、「パパ、ご本読んで」とせがんできた。
僕は本棚から久しぶりに・・・本当に久しぶりにエッツの「もりのなか」と
「またもりへ」を抜いて、薄暗いベッドでページをめくった。
「このおはなし、すごく好きだったの覚えてる」と娘。
「パパも好きなんだ。でも、なにが好きなのかうまく説明できないね」と僕。
モノクロで、場面もずっと森の中。
事件も起こらないし、特にメッセージ性があるわけでもない。
でも、本を開くと僕らはすぐに「ぼく」になり、動物たちのすること
ひとつひとつにワクワクし、その風景を不思議と懐かしく感じるのだ。
落ち着いて、安らかに、すーっと心の中に入ってきて、
読み終わった後に、とても豊かな気持ちになれる。
そんな幸せな想いを共有しながら、トロトロと眠りについたのでありました。
(金柿秀幸 絵本ナビ事務局長)
★また同じくパパ(1男1女)である絵本ナビスタッフOさんにも!
まず、笑っている赤ちゃんの顔が描かれている表紙に眼を奪われます。
生物の授業で、「個体の発生」って習ったときは、こんなに切実に思いませんでした。
今、子を持つ親となってみて、わが子が生まれてくる過程の不思議さ、すばらしさを改めて感じます。
それに、エッツの絵。
ものすごくリアルで、これもモノトーン。
派手な色もいいですが、モノトーンも、時にとてもこころに染み入ります。
中を読み進めていくにしたがって、表紙の笑顔が、最後にまたインパクトのある形で登場します。
読んでいる僕の顔もきっとほころんでいます。
大人が読んで楽しめる本ですが、おとうと、いもうとの生まれてくるお子さんをお持ちの方にもオススメの本。
◆エッツのデビュー作は・・・
エッツは社会事業や子どもの福祉関係の仕事についた後、子どもの本を描き始め、1935年に初めての絵本
「ペニーさん」を出版しました。優れたストーリーテラーであるエッツの作品の原点です。

とびらを開いたとたん、文字の多さと、単色版画のイラストに、正直しりごみしてしまったのですが、
読んだ後は、読み終えた満足感と、読んでよかったという感動につつまれました。
ペニーさんといっしょに住んでいた動物たちが、
ペニーさんの気持ちを思って、少しずつ改心していく様子が見事に描かれていて、
派手さのない絵本でも、こんなに感動するものなんだと、作者のエッツさんを尊敬してしまいました。
動物の心を動かすペニーさんの優しさに、私も触れた気がする良い絵本です。
(けいご!さん 30代・福岡県福岡市 女9歳、男5歳)
★その他にも優れた作品の数々。
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