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金柿 |
宮西さんが幼少の頃に読んですごくおもしろかった、という絵本は何ですか。 |
宮西 |
ものの4〜5歳くらいの幼少時ですが、田島征三さんの「ちからたろう」を読んだ時は衝撃的でした。 |
金柿 |
え、そんな小さな頃に衝撃度が高かったのは、一体どんな点が? |
宮西 |
それまではキレイだったり、まとまっていたりという絵本しか知らなかったのが、田島さんの絵本はページいっぱいはみ出してしまうくらいの躍動感があって。手なんかびゅ〜んと伸びてスゴイ。僕が描いた「おとうさんはウルトラマン」という作品にも大変影響を受けています。絵も話も衝撃だったもので、未だに「ちからたろう」は大切に持っていますよ。 |
金柿 |
宮西さんはデザイナーとしてお仕事をされていて絵本作家に転身されたわけですが、いつ頃から絵本作家になりたいと思われたんですか? |
宮西 |
もう小さい頃から絵を描くのが好きで、大学も美術系へ進んで、学生アルバイトで絵本制作に関わらせてもらったんですね。表紙から裏表紙まで全部絵が描けるこんなに素敵な仕事はない。そう思って、いつかこれを仕事にしたいと。 |
金柿 |
前回、奥さんがストーリーを考えて宮西さんが絵を描いた共同作品を出版社に売り込んでデビューされた…というお話をお聞きしましたが、今でも奥さんはストーリーを考えたりされますか? |
宮西 |
今は全然しません。初めの4〜5冊一緒に仕事をしましたが、彼女が創りたいものと僕が創りたいものの方向が違うので(笑)。僕は「お父さん絵本」というような父親が前面に登場するものを描いてゆきたいんです。 |
金柿 |
世の中の男親にもっと絵本とか家族とかに関心をもってほしいですから、僕は宮西さんの絵本づくりにとても共感します。 |
宮西 |
ありがとうございます。初めての絵本を出版した時は、たくさんの人の目に留まってほしくて、本屋さんに平積みされた長新太さんとか五味太郎さんとか大物作家の絵本に、さりげなく自分の描いた絵本を置いて。そこらぢゅう宮西達也の作品で埋め尽くしたりしたものです(笑)。 |
金柿 |
本屋さんで自分の本を立ち読みしてくれる人がどんな反応するか盗み見したり、とか(笑)。 |
宮西 |
そうそう。横に立って心の中で「買ってくれ〜!」と叫んでみたり(笑)。でも、今でこそ出版する絵本はおかげさまで増刷されるようになりましたが、新人時代は全然売れませんでしたから。全国各地に、自分の作品を手にとって読んでくれる人がいる、というのは作者にとっては本当に喜びです。金柿さんのようにナビゲートする立場の人がもっと増えて、良い絵本をたくさん世の中に紹介してもらいたいなと思っていますよ。 |
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金柿 |
去年のクリスマス、「パパ’s絵本プロジェクト」のお話会を丸善で開催した時に、「おまえうまそうだな」を読ませていただいたんですよ。そうしたら終了後、一人のおばあさんが「いいお話ね。孫に買いたいんだけど、どこに置いてあるの?」って聞きに来られて。 |
宮西 |
うれしいお話です。今、たくさん絵本が出ているでしょう。それだけに、本当にいい絵本が埋もれてしまっているんです。出版社の営業力で、店頭に並ぶ絵本も決まってしまうことが多いので、「絵本ナビ」のような場で、良い絵本を薦めてくださるのは本当にありがたいことです。 |
金柿 |
僕が好きなシーンは、最後のほうでアンキロが一生懸命走ってゆくのをティラノがひっそり見送る姿が、何とも言えず哀愁漂う感じで…。 |
宮西 |
僕もこのページが描きたくてこの作品を創ったようなところがありまして。このシーンの空白に流れる空気とか、見えない表情とかが実はあるんです。 |
金柿 |
お話し会でも、このページでセリフを言わずにページをジッと開いていると、子どもたちは気づくんですよ。『あ、なんかいるね』とか言って。 |
宮西 |
無駄なセリフを言ってしまうと、逆に台無しにしてしまうので。絵本の空間とか、ページとページの間合いを大切にしたいんです。さきほど観た「うごく絵本チルビー」でも、その静かな感動を実現してくれていたので、僕は感激しました。 |
金柿 |
作者の宮西さんがそうおっしゃるくらいですから、僕も「うごく絵本チルビー」とオリジナルとは別の感動が味わえると思うんです。単純に、動きのある映像の世界に惹きこまれました。 |
宮西 |
そうですね。僕も自分が創った作品ですが、のめり込んで見せてもらいました。 |
金柿 |
絵本は読み手の力量に左右されやすいだけに、受け手の創造力に余地を残す「未完成の楽しさ」がありますけれど、映像になると一つの「完成された作品」として受け取れる素晴らしさがありますね。 |
宮西 |
ああ、この場面はこういうイメージだったか…という新しい気づきもありますね。 |
金柿 |
余談ですが、先日某デパートで絵本ナビのショップを開きまして。その際に「はらぺこあおむし」や「かいじゅうたちのいるところ」などの映像作品を流していたんですが、すごく子どもたちが熱心に観ていたんです。もちろん静かに絵本を読む時間もあったんですが、映像は断然食いつき方が違うというか(笑)。映像ってこんなに惹きつけるものなのかと本当に驚くと共に、印象に残りました。 |
宮西 |
まったく別の作品として楽しめるので、オリジナルの絵本を読んでいる方には「うごく絵本」も観ていただいて、まだ絵本を読んでいない方は「うごく絵本」を先に観ていただいてもいいですね。 |
金柿 |
そうですね。絵本でみたティラノが動くとどんな感じか、ぜひご覧になってほしいですね。一つの作品をそれぞれ違う味わい方ができますから、実際に映像を見てもらうことですごくイメージが広がると思います。 |
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宮西 |
僕は知っている作品が「うごく絵本チルビー」になったら絶対観たいと思います。よく講演会などで「ここは、どうやって読めばいいですか?」といったような質問を聞かれるんですが、「うごく絵本」を観れば、「あ、ここはこうやって読めばいいのか」とか「こう読む人もいるんだ」という発見がありますね。 |
金柿 |
ところで今年もクリスマスが近づいていますが、宮西家では毎年どんな過ごし方ですか。絵本を贈るとか? |
宮西 |
いえいえ、いつも絵本がある環境ですからそれはないですね。うちは4人の子どもたち其々が父さん、母さん、サンタさんの3人からプレゼントがもらえるのがうれしい点じゃないかなぁ。 |
金柿 |
何だかデラックスな感じですね。 |
宮西 |
というのもね、12月は次女、長男の誕生日がある上、イヴイヴの23日は僕と妻の誕生日なんですよ。 |
金柿 |
へえ〜!ご夫婦で同じ誕生日なんですか!それってスゴイですね。 |
宮西 |
そう、だから12月はイベントづくしです。サンタさんが乗っている誕生日ケーキだけど、それこそ毎日ケーキを食べているし太っちゃいますよ(笑)。金柿さんは、どんなクリスマスにする予定? |
金柿 |
僕も毎年家族で過ごします。4歳の娘に「うごく絵本チルビー」をプレゼントしたくなりました。絵本ナビの読者の皆さんにも、絶対お薦めしたいなぁ。宮西さんからも読者の方にメッセージをお願いします。 |
宮西 |
そうですね。昔は何も無さ過ぎましたが、今はたくさん選べ過ぎて幸せな時代です。とにかくたくさん絵本を手にとって実際に読んでほしい。絵本といえどたくさん種類がありますから大人だって十分楽しめます。 |
金柿 |
ロングセラー絵本ばかりではなくて、たくさん色々な絵本を読んでもらって心に引っかかるものを選んでほしいですよね。 |
宮西 |
そうです。流行っているからといっておもしろいというわけではありませんからね。流行っている映画を観に行って「うわ、つまんない!」という思いをしたこともあるでしょうし。絵本だって同じです。自分で選ぶ目をもってほしいです。 |
金柿 |
「うごく絵本チルビー」シリーズは、3本お話が入って1セット。「おまえうまそうだな」の他に、礒みゆきさんの「ぼくがおっぱいをきらいなわけ」と、さとうまさとさんの「ムーニャとほしのたね」が入ってますね。 |
宮西 |
3冊分の楽しみですね。リンゴとかオレンジとか果物マークは何か意味があるんですか? |
金柿 |
全部で20種シリーズができるそうで、第一弾は5種類のラインナップということです。果物マークは数字よりも子どもたちが覚えやすいイメージのものを使ったそうですよ。 |
宮西 |
順番などは無く、好きな果物から観ることができて、「うごく絵本」という伝え方も、イメージぴったりですしとても素敵だと思います。じっくり自分の作品を堪能できて、今日は本当におもしろかったです。 |
金柿 |
こちらこそ。DVD絵本の意外なおもしろさも発見できたし、本日は本当にありがとうございました。ますますのご活躍を楽しみにしております。今年も素敵なクリスマスをお過ごしください。 |
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<構成・文/マザール あべみちこ>
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